【参】陥落

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途中でレーヤは、コンビニの障害者用トイレに真理と入り、ボロボロで血の付いたApleberute(アプレビュート)の衣装を、少し大人びたラインのLAPIN(ラパン) AGILL(アジェル)に着替え、傷の手当てをした。 目的地までは、車で15分程度。 智積院から143号線を南下し、塩小路通を西へ行くと、直ぐに南大門が見えて来る。 右折して南大門をくぐり、左手の東大門を過ぎると北門があり、参拝入場口になっている。 京都市東山区三十三間堂廻り町657。 天台宗の古刹(こさつ)(由緒ある古い寺)蓮華王院(れんげおういん)、別名三十三間堂。 「村上さん、駐車場で待っていて貰えますか?」 「あぁ、いいよ。君たちをように、指示を受けてるから、足代わりにでもしてくれ」 瀬川からの、目を離すなとの指示である。 それに、軽く笑みを浮かべるレーヤ。 「助かります」 一言礼を言い、ドアを開けて降りた。 「別に…えっ?」 レーヤに両腕が無いのは、見て直ぐに分かった。 先に降りて開けてやるつもりだったが…。 (普通に開けた様な気が…) 「さて…行くか」 再確認したレーヤのアームカバーに、腕はない。 その降りた三人を見て、近寄る二人。 「お待ちしておりました、華僑林麗夜様」 少し驚く真理と鶴城。 声を掛けたのは、高僧だと分かる。 「桃林(とうりん)ご住職、無理を言ってすまない」 「いえ、天台座主様の来院は久しく、大変光栄に思います。若い僧侶達も楽しみにしておりましたが、智積院の火災の手助けに行っております」 「そうなんですか。他宗派でありながら、そのご助力。父に代わって感謝申し上げます」 「もしや…神崎貞生ご住職の?」 「はい。息子の神崎鶴城です」 「なんと言うべきか…お父様は大変残念なことで、お悔やみ申し上げます」 手を合わせ、悲し気に頭を下げる二人。 他宗派とは言え、近隣の寺社として、親しい付き合いがあった桃林である。 顔を上げ、目を合わせた時。 一瞬、僅かに身を引いた。 それを見逃さず、レーヤが告げる。 「こちらの彼女は、日下部法成の娘です」 「え…あ、日下部真理と申します」 急に紹介されて、慌てる真理。 軽く頭を下げて、目を合わせた。 (やはり…か) レーヤの目が細まる。 「こ…これは驚きました。法成ご住職は不在であった様ですが、知恩院も悲惨な状況と聞きました。一体この都で何が起きているのやら」 天台座主に真言豊山派座主の息子、更に浄土門主の娘が連れ立っての来院。 驚くのは無理もない。 「ご依頼の通り、本日は臨時の休館としております。私は法事で出掛けますが、息子の信幸(のぶゆき)が案内しますので、何なりとお申し付けください」 手を合わせ、軽く頭を下げる信幸。 黒いスーツ姿は、まるでホスト並みである。 「おっと、これは通信機だ。ここを押せば相互通話ができる。何かあれば連絡を」 車から出て来て、三人にイヤホン式のものを渡す。 彼の顔も伺ったが、手の仕草で断る信幸。 「聴こえますか?」 早速試す機器の苦手なレーヤ。 「感度良好だ」 OKジェスチャーをしながら、応える村上。 「関空から行方不明の救急車だが、妙に気になる。見つかったら教えて欲しい」 銃で撃たれ、搬送された負傷者1名。 その救急車は、予定の病院には着かずに消えた。 「ラジオで言ってたやつだな、分かった」 それを聴いて、スイッチを切るレーヤ。 信幸に先導され、中へと入って行った。
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