【死】裏観月

4/13
前へ
/58ページ
次へ
レーヤが続けた。 「天台宗の寺社を狙った放火事件に、まるで対抗したかの様に、主要他宗派本山の火災。当然疑いの目は天台宗に向く。浄土宗に真言智山派、極め付けが高野山とくれば、十分過ぎるでしょ」 「京都の浄土真宗総本山が無事なのは、炎魔が先の放火事件の犯人だったから…ですね」 鶴城が思わず割り込む。 その目を見て、うなずくレーヤ。 「宗守が東京に来た理由も、ハッキリしたわ」 「将生の仮通夜でしょ?」 あっさり普通に問い掛ける瑠奈。 「猟奇殺人事件よルナ。東京に来ても、警視庁からの遺体の引き渡しはまだまだ先。遺体が受け取れたとしても、本山の高野山で執り行うべきもの。仮の葬儀なら尚更のこと」 「なるほど…確かに。高野山の座主が、主力を引き連れ、本山を留守にするリスクは大きいわね」 「寺社は新築すれば良し。死んだ者の代わりは幾らでもいる。それが、あの久我山宗守って奴よ」 顔を思い浮かべ、一瞬身震いをした真理。 しかし、握った拳は怒りに震えている。 「それから、知恩院で屍人使いを使ったのは、真姫羅とは別人。確かに、唯一焼け残った三門の床には、六壬栻盤(りくじんちょくばん)が描かれていて、真言密教で使う九字の印(臨兵闘者 皆陣列在前)があったが、あの強烈な結界は仏教ではないをしていた」 「六壬栻盤や九字の印は、陰陽道でも使います」 鶴城が補足を入れる。 大学で、陰陽師について研究していた。 「それに、屍人使いは智積院にはない。まるであれは、私が知恩院へ来るのを見越して仕掛けた、置き土産みたいなもの。ほんのご挨拶ってところか…あ、すまないマリ」 「大丈夫です。ではその結界を破り、屍人使いの術を解くために、三門を燃やしたのが、あの時の炎魔なのね。術を封じただけで逃した恩返し?」 炎魔と戦った場に、真理もいた。 「そんなところだが、死に場所を探していた…と言った方が、正しいかも知れないわね」 「何とも哀れな話ね」 心からそう思った瑠奈である。 「問題は…真姫羅と、西山浄土宗をやった奴ら。どちらもロスからの便。一体アメリカから何者が、何をしに来たって言うのやら」 「レーヤ、もしそいつらがグルで、日本の仏教に喧嘩売ってるとしたら、比叡山も危険では?」 「それは多分大丈夫よルナ。その筋の者なら、天台宗の(おさ)が死亡し、現役は東京にいる私ってことぐらい知っているはず」 ニヤリと笑みを浮かべ、伝えるレーヤ。 葬儀にも行かなかったその意図が、理解できた。 「あ…でも、京都の西本願寺は危ないかも。浄土真宗本願寺派が、天台宗の味方なんてこと、奴らには関係ないはずだから。浄土門主の枚方(ひらかた)さんには、知らせといて」 「レーヤ、敵をまた助けるの?」 「マリ良く聞いて。仏教界に敵味方なんてものは無い。私の父である天膳が、命をもって知らしめたこと。天膳が目指した、仏教界、いや…宗教界の統一ってのは、統合ではなく、対立を無くし、この国の宗教として存続させるためよ!」 真理はもちろん、聞いていた鶴城と瑠奈も、華僑林天膳が、レーヤを天台座主に選んだ理由。 その責任と判断と期待を、改めて確信した。 「な〜んて、言うのは簡単なんだけどね。少なくとも、国民が拠り所とする宗教界を、対立と批判ばかりの政界みたいにはしない様、精々頑張ってみるから、皆んなよろしく」 その清らかに澄んだ力強い瞳。 シッカリとうなずく真理と鶴城であった。 「あ、そう言えばレーヤ。ヒーラから伝言よ」 「どうだって?」 「あの少女は、奥多摩町にある養護施設を抜け出して、行方不明になっていたみたい。だから、当然ながら海外渡航歴は無く、宗教も特に無し」 「やっぱりそうか…ヒーラに礼を言っといて」 「何だか知らないけど、了解。ところでレーヤ、今ここに帰るのは、やめた方がいいわね」 モニターに映る数が増えていた。 「だろうね、適当な病気にしといてくれるかな。行く当てはあるから、着いたら連絡するわ」 「目立たない様にね…って、無理か💧」 「な…何とかするわ💦」 話しながら、その目は真理を見ていた。 「宗馬はいる?」 「仮の葬儀に列席した後、気になることがあるとか言ったきり…見てないわね」 「じゃあ…戻ったら伝えて。警視庁に味方がいるみたいだから、ハイジャック犯や現場の情報を、できる限り入手する様に。じゃあ、マスコミの相手頼むわ。ルナなら大丈夫よ!」 根拠のない励ましを言って、電話を切った。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加