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【壱】古都炎上
東京駅5:45。
人も車も、まだまばらな早朝。
タクシーを降り、開いたトランクから、運転手より早くキャリーバッグを引っ張り出した。
「おっと悪いね、始発かい? 」
「はい。ちょっと寝坊して💦」
言っておきながら、昨夜の11時過ぎの電話で始発を告げられ、果たして寝過ごしたと反省するものか?と理不尽さを感じた。
「東海道新幹線なら、そこの階段が早いよ…あ、でもお迎えが来てくれた様だね」
それを調べたからここで降りた…とは言えず、礼を言いかけて、その目の方へ振り向いた。
「日下部真理さん…ですね?」
「あ…はい。そうですけど?」
高そうなスーツを、見事に着こなした男女2人。
迎えなど聞いてはいないし、期待もしてない。
丁度その頃。
真逆の入り口に停まったリムジン。
先に降りて、後部座席のドアを開ける運転手。
「原田さん…ここって、新幹線のホームまでメッチャ遠くない?」
降りながら、スマホの位置情報を見せるレーヤ。
しまった!と顔に書いてあるかの様な原田。
「東京駅って言えばここかと…」
確かに、観光写真には映えるスポット。
赤煉瓦造り風の駅舎は、今も健在である。
「レーヤさん、荷物はこれだけですか?」
トランクから大きめのショルダーバッグを取り出し、確かめる神崎鶴城。
「そうよ。悪いけど私の肩に掛けてくれるかな? それからツルギ、さん付けは無しで頼むわ」
「あ、そうでしたね。レーヤ、荷物は私が持つから、少し急ぎましょう」
鶴城が、スマホの時刻を見て急かす。
東京始発の博多行き東海道・山陽新幹線は、6時丁度の発車である。
「仕方ない…じゃあ荷物お願い。原田さん、朝早くからありがとね。じゃあ行ってくるわ」
労いの言葉は忘れないレーヤ。
原田が、済まなそうにペコリと頭を下げる。
(運転手は、さん付けなのか…)
その気遣いと、ゴスロリファッションのミスマッチに、思わず微笑む鶴城。
こうして、何とか間に合った2人。
予約したグリーン車両に乗り込んだ。
「レーヤ、こっちこっち!」
車両に他の乗客はいない。
中程で、ひとり手を振る日下部真理。
「手を振るなマリ、全く…目立つだろうが」
「手を振らなくても、十分目立ってますけど…」
後ろから鶴城が呟く。
呆れた顔が、見なくても分かった。
「うっ…違う、子供じみたことをだな…」
言いかけて気付くゴシックロリータ。
黙って席に着いた。
「私1人っきりで、騙されたのかと思ったわ」
「悪かったね、マリさ…あ、え〜と…マリ」
「いえ、大丈夫です鶴城さん」
一瞬レーヤの顔色を伺う鶴城。
特に無反応である。
間も無く発車のアナウンスが流れ、動き出した。
行く先は京都である。
「しかし、どうして急に京都へ?」
真理も鶴城も、要件は聞かされていない。
ただ、急を要する…としか。
「今、京都から西の宗派は、主力を東京へ集結させている。延暦寺の蒼樹も、あの高野真言の久我山宗守までも」
「それは、弟の将生さんが亡くなったからでしょう? 天台宗としても、蒼樹さんが葬儀に参列するのは至極当然では?」
鶴城は、ことの状況を全て把握し、記憶していた。
変死解剖の検査が終わり、ようやく本当の葬儀が執り行える様になった、久我山将生の亡き骸。
「まぁね、確かに。ただ、宗馬(側近の辻桐 宗馬)の情報では、逆に京都へ戻る奴がいたとのこと」
レーヤがスマホの画像を見せた。
高速道路の監視カメラが捉えた、1台のベンツ。
「誰ですか?」
首を傾げて、鶴城が尋ねる。
そのスマホに、同じく側近のヒーラ(望奈萠 柊羅)の着信が入った。
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