【壱】古都炎上

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丁度、品川駅に停車し掛けた頃。 分かった、とだけ答え、電話を切るレーヤ。 言葉を待ち、レーヤを見る鶴城と真理。 「さて、もういいでしょう、浄運寺(じょううんじ)僧正(そうじょう)日下部(くさかべ) 真琴(まこと)さん」 突然のレーヤに、戸惑う2人。 「レーヤさん、兄の真琴がどうかしました?」 不思議そうに問う真理。 「あなたの『身分之術』のクオリティの高さは、良く分かりました。品川で、この()の術を解いて、帰してあげなさい」 「レーヤ、何を急に?」 全く訳の分からない鶴城。 そこで、真理者の声が変わった。 「やはり、無理でしたか。さすがです麗夜様。天膳様が座主(ざす)を預けたのも、理解できました」 その言葉と共に、真理の姿が、全く知らない女性に変わっていった。 「参考のためにお聞かせください。なぜ分かったのですか? 麗夜様が初めてです」 「兄ならマリの能力は知っているはずでは? 今回の京都(みやこ)行きは、決して穏やかなものではない。真理なら無意識に止めようとするはず。だから、先に乗って嬉しそうに手は振らない」 「他人の危険を察知し、無意識に防ぐ…『他心眼』か。なるほど、参りました」 「それにマリはもう、鶴城さんやレーヤさんとは呼ばない。引き留め様とした様だが、迎えに行ったはずの天台(うち)のヒーラが、バイクでタクシーを追いかけ、東京駅でしたらしい」 品川駅のホームに立つ、真理の姿が見えた。 「あれが『身分之術』…確か、その者の容姿や声までも、全く他人に生き移す術」 「神崎貞生様のご子息、鶴城様ですね。術式を良くご存知で。しかし、麗夜様には無理でした。出来れば真理を行かせたくはなかったのですが…仕方ない。くれぐれもお気を付けて」 「言われるまでもない…が、あなたの様な兄を持つマリは幸せ者ね。神樂(かぐら)と代わって貰いたいものだ」 それを聞いてか聞かずか、もうそこに真琴の意識は消え、我に返った彼女。 「浄土宗の人ですね。もう任務は終わりました。ここは品川駅です。降りて帰りなさい」 レーヤの笑みに、とりあえず頭を下げ、慌てて出て行く彼女。 「妹思いの、良い兄ですね」 「フッ…もしあのまま彼女が京都へ行けば、まず生きては戻れない。果たして、それでも良いと言えるかな」 ニヤリと笑むレーヤ。 そこへ、真理が入って来た。 「はぁ〜もぅ、散々よ❗️ 知らない2人が現れたかと思ったら、いきなりヒーラがバイクで割って入って2人を跳ね飛ばして私にヘルメット被せて後ろに乗せて信号も何もかも無視してブッ飛ばして気が付いたら品川よ❗️ハァ…ハァ…全く…」 「分かったからマリ💦、とにかく座って深呼吸でもして落ち着け」 「マリさ…あ、…マリ、荷物を貸して」 「えっ…あら、鶴城さ…じゃなくて、ツルギ💦。ありがとうございます」 「呼び捨てで、ございますと言うか?」 愉し気に微笑むレーヤ。 鶴城が、真理の片想いの相手だと知っている。 「因みにツルギ、あの写真は真姫羅(まきら)って言う、高野真言の厄介な術師よ。間違いなく、久我山宗守の指示だと思うわ。そして、奴への指示なら…只事じゃないってこと」 「それで京都へ…」 ことの重大さが分かって来た鶴城。 「しかしそんな写真、どうやって?」 「あぁ、何だか警視庁の有名人達と親しくなったみたいでね。要注意人物の写真や情報を秘密で教えて、ツルギ…あなたの兄に監視してもらってるのよ」 「えっ…兄の(すばる)にですか⁉️」 驚く鶴城。 神崎昴は、警視庁直下の刑事課にいた。 成就寺を炎魔が襲撃した時、誤って僧侶が1人死亡したため、刑事課の取調べを受けた宗馬。 心理捜査官の紗夜(さや)刑事は、今や東京では有名人であり、刑事の真田や桐谷も信頼できると判断した宗馬は、手を結んだのである。 「そう言えば、兄の務める警視庁ビルには、花山警視総監もいて、亡くなったレーヤの父さんと、かなり親しかった様です」 「花山 武道(たけみち)…ね。総監になる前に一度会ったわ。なかなかの人物。確かその弟が、国の宗務課も属する文化庁の長官よ」 そこでやっと落ち着いた真理。 「あっ! 私、部屋の鍵掛け忘れたかも⁉️」 「ほら始まった。これが本物のマリだ」 「なるほど」 「何なのよそのニヤニヤは? あっ…他心眼ってヤツね。何だか自分が怖くなって来たわ」 「頼りにしてますよ、マリ」 真顔でツルギに言われ、赤面する真理。 そして思い出した。 「だいたいレーヤ! 夜中に突然連絡して来て、京都へ行くなんて、一体どう言うつもりなのよ❗️」 それから京都に着くまで。 レーヤは、知り得ていることと成すべきことを、2人にじっくり聞かせたのであった。 とりあえず、目先の問題について。 その先にある大きなものには、まだ触れず。
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