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その微妙な空気を、電話の音が切り裂いた。
素早く咲が出て、スピーカーに切り替える。
「はい警視庁刑事課、事件ですか?」
「ロサンゼルス発羽田空港着のユナイテッド航空232便が、羽田空港にてハイジャックされたとの通報あり。本部の出動をお願いします」
「はぁ? 着いてからハイジャックされたの?」
「詳細は確認中ですが、乗客がSNSにアップした動画に、銃を持った男が映っている様です」
「咲さん、これですね」
既に規制された動画を、昴が見つけ出し、モニターに映す。
「了解、とりあえず向かうわ」
電話を切り、モニターを見る咲。
男性が1人、銃を客室乗務員に向けていた。
「昴さん、ズームアップしてください」
桐谷の意図を理解し、銃を拡大しながら、解析システムで解像度を補う昴。
「スミス&ウェッソンM39 …か」
「カリフォルニア州の警察が携帯する銃ね。ロス市警でも御用達でした」
ロス市警に在籍経験のある紗夜。
「咲さん、彼は恐らくスカイマーシャルです」
「桐谷、何なのよそれ?」
「その配備は極秘事項だけど、機内に潜入している警乗警察官よ」
「そんなもの、映画の中のフィクションだろ? そもそも銃なんか、飛んでる時には使えねぇし」
「普通の弾はね。与圧された機内で、機体に穴を開けるのは致命的。だから、固い物に命中すると砕け散る『フランジブル弾』を使用してるのよ」
「911以来、アメリカではテロ対策として、極秘に搭乗させてると聞いてましたが…しかしなぜ?」
真田が呟きながら首を捻る。
「かなり優秀な者しか選ばれないはず。なぜそんな警官が、ましてや着陸した機内で?」
「考えるのは後にして、とにかく現場へ。真田と桐谷は乗客の救出経路と、機内への侵入経路を。紗夜と淳は、交渉班を連れて彼とコンタクトを」
「了解!」
出て行く真田と桐谷。
「行くぜ紗夜…ん? どうかしたのか紗夜?」
モニターに繰り返される映像。
それを見つめて動かない紗夜。
「何かが…おかしい。上手く説明できないけど、彼は…普通じゃない気がする」
「おい紗夜、普通じゃないのは見りゃ分かる。とにかく行くぜ!」
淳一に急かされ、出て行く紗夜。
直ぐに昴の携帯が鳴った。
(あれ、紗夜さん?)
表示を見て、慌てて出る昴。
「昴さん。あの便の乗客名簿を入手して、調べてみてください。あと、ロス空港と機内の監視カメラ映像も」
「分かりました。紗夜さん、気をつけて!」
この忙しさが、ここの恒であった。
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