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「──どうしてお面をつけてるの?」
川には確かに子どもがいた。けれど、おばあちゃんが言うような『みんな』はいなくて、手作りの鬼のお面をつけている子がひとり。白いタンクトップに青い半ズボン。顔は見えないけれど男の子なんだろう。いびつにくりぬかれた目の穴が少しだけ恐ろしい。
「やけど」
男の子は、そう短く答えた。
なんとなく聞いてはいけないことを聞いてしまったようで居心地が悪い。でも、川がそばにあるから涼しくて、ぼくはすぐに帰る気にもなれなかった。
「ぼく、ユウヤっていうんだ。夏休みだから、おばあちゃんちに遊びに来てて」
「どこから来たの」
「東京だよ。君は何年生? 名前は?」
「四年生、タカシ」
そこで会話はぷつりと途切れ、水の流れる音だけが辺りに響く。タカシは、ぼくなんていないかのようにしゃがみこみ、石を拾っては積み上げ、崩れてはまた積み上げを何度も繰り返す。
画用紙で作られたお面は、黒いクレヨンで鬼が描かれていて、パッと見ただけでは鬼だとわからない。あれ? じゃあ、どうしてぼくはすぐに鬼だとわかったんだろう。目玉の部分はくりぬかれているし、鼻も口も描いてない。かろうじて頭の真ん中に尖った角のようなものがあるだけ。
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