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ぼくは手の中にある五千円札をぎゅっと握りしめた。お面は安くない。一個千円もするのだから四年生のタカシにとっては高い買い物だろう。
「お父さんとお母さんは?」
「いない」
タカシは短く答える。いないとは、今この場に? それとも死んでしまったということだろうか。どちらにしても、川で会った時と同じ服を着ているタカシは裕福そうには見えない。
「じゃあ……記念に買ってあげるよ。どれがいい?」
「本当!?」
「うん。この村で友達になったのはタカシくんだけだから」
タカシはぴょんぴょん跳び跳ねて喜んで、戦隊ヒーローのお面を指さした。一番人気のレッドだ。
ぼくはお兄さんになったような気分で、そのお面を買い、タカシに渡した。ありがとう! そう言ってタカシはくるりと背を向け、さっと鬼の面を外し、新しいお面を装着する。
そして。
「これをユウヤくんにあげる。つけてみてよ」
ついさっきまでタカシがつけていた鬼のお面。画用紙で出来たよれよれのそれをつけるのは、さすがに嫌だなと思ったけれど、断ればタカシが可哀想だと思い、ぼくはしぶしぶそのお面をつけた。
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