ないしょのはなし

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「久々の現場だった事もあってうっかりしちゃったんだよな……お客様が走って追っ掛けてくるまで全く気付かなくてさぁ、すごいやらかしたよ」  すると、周囲で笑いが起こった。 「皐月(さつき)係長ドジっ子ー」 「想像しただけで笑える」 「そりゃ紫崎(むらさき)も突っ込むわっ」    誤解されがちな彼の態度を、俺への愛あるヤジで吹き飛ばしてくれた。和やかな雰囲気になってくれたことに安心しつつ、俺は締めに入った。 「まぁ、ここのメンバーではそういう話全然聞いた事がないから大丈夫だとは思うけど、俺の体験を是非頭の片隅に入れて作業して下さい。それじゃあ、今日もよろしくお願いしまーす!」  緩い部活みたいなバラバラな返事が聞こえ、それぞれが動き出した後。紫崎は俺の方にやって来てぼそりと言った。 「まさか係長がそうだとは思いませんでしたよ」 「あはは、歳かも」 「まだ三十代でしょ……」 「うん、三十四。けど、二十五の紫崎と比べると歳だろ?  三十代っておじさんって言われるらしいし。最近芸能人の名前も思い出しずらいんだよな」  後頭部掻いて笑ってたら、彼のレアな表情が瞳に飛び込んできた。 「老化進ませないで下さいよ。係長居ないとここが困るんですから」 「そ、そっか」  紫崎が入社してから三年。俺が居ないと困るって嬉しい言葉の他に、照れを含んだ様な笑みまで貰った。  更に、彼は思い出した様に今夜の約束について口にした。 「そういえば今日の飲み会、係長絶対に来て下さいよ? 俺一人じゃ酔っ払いの面倒見切れないし、たまには貴方とも飲みたいですから。それじゃあ行ってきます。 「あ、あぁ……行ってらっしゃい」  備品が入ったロッカーに向かう紫崎。彼がこちらに背を向けた途端、俺は右手を口許に宛てて喜びを噛み締めた。  中学・高校とバスケをやっていたらしく高身長で細マッチョ。軽くウェーブが掛かった髪がオシャレで、初めて見た時に俺の良い男センサーが反応した。  態度が気だるげで言動も誤解されがちなタイプだけど、時たま親しい人間に見せる姿があれだ。 (最初は俺に対しても素っ気ない態度だったけど、これは仲良くなった認定じゃないのか? 地道に話し掛けていたのがやっと報われた!)
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