ほんのできごころ

4/7

148人が本棚に入れています
本棚に追加
/173ページ
「でも、あの時は紫崎の好みだけ聞けなかっただろ? そういう話には乗り気でもなかったし」 「……あんまり興味ないんですよ。好みとかわかんねぇし。そっち系の話は苦手だし……」 「興味ないし苦手って……」  まさかとは思いつつも、紫崎の意外なギャップを発見したのではと、一人でハッとした。 「まさか童て」 「違う。さすがに経験はあるから。セクハラで訴えるぞ」  睨まれながら喰い気味に否定され、勝手に残念に思った。 (童貞ならもっと可愛がったし、手伝いも出来たかもしれない……いや、無理か)  そんな邪な考えを持つ俺の横で、紫崎は頬杖付いてうんざりしてる様に言った。 「俺、そういうこだわりとか全然なくて……今までは告白されたらどんな女でもとりあえず付き合ってたんです。でも好きになる事は全然なくて、結局振られて。傷付きもしないし、困りもしないんですけど……面倒っつーか」 「そうなのか」  雰囲気からクールさは感じ取っていたけれど、思ったよりもドライそうだ。 (やっぱりモテてるみたいだけど、恋愛に興味ないのに注目浴びるのは、本人にしてみればストレスになるのか)  それでも経験はしてきたみたいだし、気になって少し粘ってみた。 「けどさ、抱いたりとかしてたんなら少しは愛情湧いたりとか、たまには興奮したりとか……」 「全然。そういうの本当にわかんなくて……俺から誘う事とか皆無だし、求められたらしてたけど」 「あー、淡白なんだな……」 (性欲の権化みたいな俺とは正反対だな……)  話を聞いてぼんやり飲んでいた俺の横顔を、紫崎が見ている事に気付いた。  目を合わせると、酔い始めた俺の瞳には、彼が癒しを欲している様に見えた。  いつも気だるげだが、目が少し虚ろで何も楽しみがなさそうで。何もかもがつまらなそうに感じる。  何か、してやりたくなった。アルコールが回った頭だと、まともな答えは浮かびそうにないのに。 (もしかしたら、興奮する対象が違うとかは……ないのか?)  ふと、自分にとって都合の良い憶測を思い付いて、つい口に出していた。
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

148人が本棚に入れています
本棚に追加