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恋人居るのに欲望丸出し感はやばいと思いながらも、とりあえず謝る為に側に寄った。
「あの、遅れてしまって申し訳ありません! 私、スポット課の係長をしている皐月と申しま……」
こちらを振り向いた相手の顔を確認して、思わず発声を止めた。目が飛び出るんじゃないかって思う程、仰天した。
「久しぶり、皐月」
何度も目にしたことのある爽やかな笑みを浮かべ、彼は俺の肩をポンポン叩いた。
「最後に会ったのはお前が二十代の頃だったけど、係長姿、様になってるな」
「お、お久しぶり、です……なんでここに」
動揺し過ぎてうまく喋れない。背中に変な汗まで掻いてきた。
俺とは逆に、彼は誇らしげに笑っている。
「俺がスポット課の新しい課長になるからだよ」
「えっ!?」
「昇進する為に頑張って、ようやく夢が叶ったんだ。今の課長さんに、皐月を驚かせたいから内緒にして欲しいって頼んだんだけど、約束守ってくれたみたいだな」
再会を喜んでか、改めて親睦を深める為か。相手は握手をしようと、手を差し出してきた。
「こうやって戻って来れて嬉しいよ。これからよろしくな」
満面の笑みで彼は握手を待っていたけど、俺は気が動転していた。
「あっ、と、とりあえず応接室にっ! 課長がお待ちなのでっ! 付いてきて下さい!」
俺の手は彼の手を握らずに、エレベーターの方を示した。
握手を交わさない俺に、受付の子は不思議そうな顔をしていた。
彼も呆気に取られていたけど、手を引っ込めると可笑しそうに笑い、歩き始めた。
エレベーターまでの短い道のりも、緊張のせいで足が重い。
開閉ボタンを押す指も震える。
(この雰囲気で二人はきついっ! 頼むから誰か乗ってくれっ!)
そんな願いは叶わず、エレベーターに乗るのは俺と彼の二人だけ。
開閉ボタンの前で少し待ったが、俺の後に乗り込んできた彼の腕が後ろから伸びてきて。閉まるのボタンを押してしまった。
扉が閉められ、狭い空間に二人っきり。
エレベーターに速く動いて欲しかったけど、直ぐ様行動を起こしたのは彼だった。
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