あんうん

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 そのまま応接室の扉前に辿り着いて、小さくノック。課長の声が聞こえたから、彼と一緒に室内へ入った。 「失礼します、水無瀬さんお連れしました……」  ソファに座っていた課長はゆっくり立ち上がり、穏やかな笑みで水無瀬さんを迎えた。 「ようこそ。御足労お掛けしましたね。サプライズは成功しましたか?」  水無瀬さんは愉快そうに笑って俺の背中をポンポン叩いた。 「はい、驚いた顔を課長さんにもお見せしたかったくらいです」 (そりゃあ驚くわ……) 「水無瀬さん、その話はもういいですから……どうぞ座って下さい。お茶お持ちします」  顔を強張らせて座る様に促した後。表情を誤魔化す為にテーブルから少し離れた棚前に移動し、お茶を用意しに掛かった。  俺の様子を目にした課長は、俺の姿を新鮮そうに観察し、分析していた。 「皐月くんがこんな感じになるのは珍しい。よほど仲が良かったんですね」 「はい、とても」  含みのある返事をした後、水無瀬さんはスマートにソファへ腰を下ろした。  急須に電気ポットのお湯を注ぎながら、内心ヒヤヒヤで会話に耳を傾ける。 「皐月が入社した頃は俺が面倒を見ていたから、今係長になっているって聞いた時は驚きました」 「そうですか。彼は部下達ともとても仲が良くて、以前と比べて事務所内の空気は良くなりましたよ。揉め事も多かったですけど、彼が間に入ってくれて、皐月くんは上司としてみんなにとても好かれていますよ」 「へぇ……」 (からかわれそうだな……)  お茶の準備が出来たところで、おぼんを持って振り向いた。  意外にも水無瀬さんはどこかつまらなそうで、一瞬笑みが消えていたけど。 「ちゃんと係長してるんだな」  俺を見てすぐにニヤついた顔に戻ったから、気のせいかと感じる。 「お、俺の話はいいんですよ! お二人共、引き継ぎの話して下さいっ。俺は業務に戻りますのでっ」  お茶を二人の前に置きながら、早くこの場から去りたくてそう言ったのに。 「あっ、皐月くんにはこれから彼のサポートもお願いしたいから、この場に皐月くんも残ってくれないかい? 事務の子達には伝えたから」 「えっ……」  そう言われ、嫌そうな顔が表に出てしまったかもしれない。  水無瀬さんを見るとお茶を啜りながら、俺を探る様な目で見ていて。 「わ、わかりました……」  冷や汗を流しながら、とても下手くそな笑みを課長に向けた。
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