147人が本棚に入れています
本棚に追加
/173ページ
そのまま応接室の扉前に辿り着いて、小さくノック。課長の声が聞こえたから、彼と一緒に室内へ入った。
「失礼します、水無瀬さんお連れしました……」
ソファに座っていた課長はゆっくり立ち上がり、穏やかな笑みで水無瀬さんを迎えた。
「ようこそ。御足労お掛けしましたね。サプライズは成功しましたか?」
水無瀬さんは愉快そうに笑って俺の背中をポンポン叩いた。
「はい、驚いた顔を課長さんにもお見せしたかったくらいです」
(そりゃあ驚くわ……)
「水無瀬さん、その話はもういいですから……どうぞ座って下さい。お茶お持ちします」
顔を強張らせて座る様に促した後。表情を誤魔化す為にテーブルから少し離れた棚前に移動し、お茶を用意しに掛かった。
俺の様子を目にした課長は、俺の姿を新鮮そうに観察し、分析していた。
「皐月くんがこんな感じになるのは珍しい。よほど仲が良かったんですね」
「はい、とても」
含みのある返事をした後、水無瀬さんはスマートにソファへ腰を下ろした。
急須に電気ポットのお湯を注ぎながら、内心ヒヤヒヤで会話に耳を傾ける。
「皐月が入社した頃は俺が面倒を見ていたから、今係長になっているって聞いた時は驚きました」
「そうですか。彼は部下達ともとても仲が良くて、以前と比べて事務所内の空気は良くなりましたよ。揉め事も多かったですけど、彼が間に入ってくれて、皐月くんは上司としてみんなにとても好かれていますよ」
「へぇ……」
(からかわれそうだな……)
お茶の準備が出来たところで、おぼんを持って振り向いた。
意外にも水無瀬さんはどこかつまらなそうで、一瞬笑みが消えていたけど。
「ちゃんと係長してるんだな」
俺を見てすぐにニヤついた顔に戻ったから、気のせいかと感じる。
「お、俺の話はいいんですよ! お二人共、引き継ぎの話して下さいっ。俺は業務に戻りますのでっ」
お茶を二人の前に置きながら、早くこの場から去りたくてそう言ったのに。
「あっ、皐月くんにはこれから彼のサポートもお願いしたいから、この場に皐月くんも残ってくれないかい? 事務の子達には伝えたから」
「えっ……」
そう言われ、嫌そうな顔が表に出てしまったかもしれない。
水無瀬さんを見るとお茶を啜りながら、俺を探る様な目で見ていて。
「わ、わかりました……」
冷や汗を流しながら、とても下手くそな笑みを課長に向けた。
最初のコメントを投稿しよう!