ほんのできごころ

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「紫崎、それこそ……今までは何となく付き合ってたりしてたんだろうけどさ……無理に恋愛に興味は持たなくてもいいけど、試しにした事ない経験してみるとか、どうだ」 「……例えば?」  普段だったら自分の事がバレない様に、こんな事は絶対言わない。けれど、今は判断力が鈍っていて。 「男と、経験してみるとか……」  喋った後の事を想像する頭も残っていなくて、俺は頬に熱さを纏いながら喋っていた。  そしたら、紫崎は一瞬目を見開いたけど、いつもの整った顔立ちになり。 「それ、係長が相手してくれるんですか?」  冗談で言ったのかと思ったけど、笑ったりはしていなくて。  何でそう答えてくれたのかはわからないが、俺は完全に本性を隠すのを忘れていた。 「うん……良いよ」  期待に満ちた表情で彼を見上げ、まるでねだるみたいに彼のジャケットの裾を掴んでいた。  ─ ─ ─ ────  ホテルまで移動するのも待ちきれず。介抱してもらう(てい)で、紫崎をトイレの個室に誘導した。  紫崎の背を壁に預けさせて、迫るみたいに身体を寄せる。  了承はしてくれたけど、紫崎は緊張した様子で俺を見下ろしていた。  アルコール度数高めのブランデーで、俺は少しふにゃふにゃになっている。その状態で、彼の頬を愛でる様に撫でた。 「大丈夫だぞ……少し試すだけだから……嫌な事はしないし。ちゃんと聞いてからするな」 「はい……」  少し顔が赤くて、男に慣れてない感じが本当に可愛く思えた。  頬を撫でていた指を、紫崎の唇の方へ官能的に滑らせる。そこをなぞってやると肩が震え、唇からは息が漏れた。 「キス……しても平気か?」 「平気です」  すんなり応じてくれたけど、男とするのは初めてだろう。だから、軽く触れる様に唇を合わせた。  数秒で放してやると、俺の腰に紫崎の手が添えられた。目で確認したら、火が点いたらしい声が返ってくる。 「それじゃあわからないから……もう少し」 「そっか、じゃあ……」  今度は身を乗り出して、濃密に触れ合う様に唇を合わせた。強く唇を押し付けて、官能的に啄んだりして、反応を探る。 「んっ……!」  そしたら、紫崎が付いてくる様になって、本当に互いを求め合うみたいにしてた。
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