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応接室から出てきた課長にも気付き、紫崎は見比べる様に二人を見ていた。
「新しい課長、ですか」
「あぁ、今応接室で引き継ぎの話をしていたところなんだ。水無瀬さんは以前ここに勤めていて、俺の教育係もしてくれていた人なんだ。覚えておいてくれ」
「へぇ……」
一応話をしてみたが、興味はなさそうだ。関わることは少なくなるんじゃないかと予想した。
すると、紫崎は目線を逸らすことなく、水無瀬さんにはっきりと言った。
「あまり課長っぽくない人ですね」
多分、今の課長と比べてって意味なんだろうけど。今の発言は、プライド高めな水無瀬さんにとってはアウトな気がする。
首をぎこちなく動かして、ビビリながら隣を見やる。
彼は腕を組みながらクスクス笑っていた。
「はっきり言うんだな。まぁ課長と比べるとまだそうは見えないだろうが……少しずつ慣れてくれ」
「努力はしますけど……俺は今の課長の方が良いから、時間掛かりそうです。それじゃあ失礼します」
紫崎は水無瀬さんに一応頭を下げ、その場から去る意思表示をした。その時、一瞬俺に視線を合わせて、彼はそのままトイレの方に向かって行った。
紫崎の背中を見送った水無瀬さんは、感心してる様に顎に指を当てた。
「上に対して物怖じしない珍しいタイプだな……」
後ろの方で見守っていた課長は、微笑みながら紫崎をフォローしていた。
「物言いがはっきりした社員で、昔は先輩方とよく揉めていましたが、真面目な社員ですよ。私を褒めてくれたから贔屓するわけではないですが……以前私が転んで骨折した時、見舞いにも来てくれましたし」
「えっ、そうだったんですか?」
確かに一年程前、作業員達が使う階段から課長が転倒して、怪我をしたことがあった。俺もお見舞いに行ったから、よく覚えている。
俺も知らなかった紫崎の一面に、心底驚いた。思わず身体を課長の方に向けた程。
課長は、懐かしそうに天を仰いで、目を細めていた。
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