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水無瀬さんの所に戻った後は、事務要員達の仕事風景を一緒に見たり。書類等の保管場所の確認等、出来ることをした。
一通り終わって昼休みになると、俺は会社の売店で二人分の昼食を調達。戻ると、水無瀬さんは社員達に囲まれていた。
俺や水無瀬さんと年齢がそんなに変わらない社員達は、彼のことをよく知っている。
新しい課長になると聞いた彼等の反応は様々だったけど、歓迎ムードではあった。
俺も最初は複雑だったけど、今は状況を受け入れるしかないと思っている。
それに、輪の中心で笑っている水無瀬さんを見ていると、俺は少し安心出来た。
本当の自分を隠す為に偽り続けていた俺と、彼は同じだから。彼が周囲と馴染めている姿を見るのは、自分のことの様に嬉しい。
付き合い始めた頃の水無瀬さんは、ノンケに対して敵意剥き出しだった。
『自分を普通とは違うものみたいに見る奴等が、俺は大嫌いなんだ。だから、いつか上に昇り詰めて……蹴落としてやるんだ』
一緒にベットに寝転び、狂気染みた笑みを浮かべて、彼はそんな風に言っていた。
まさに有言実行を果たしたんだろうが、今の光景を見ると少々丸くなった様に感じられる。
俺にも紫崎みたいな理解者が出来たから、彼にも同じ様な体験をして欲しい。
そう願いながら笑みを溢していたら、水無瀬さんと目が合った。
俺を見るなり、彼は人混みから抜け出してきた。
そして、疲労感漂う笑みでこちらを見下ろした。
「戻ってきていたなら早く声を掛けてくれよ。皐月が戻ってくるの待ってたんだぞ」
「すみません。でも楽しそうだったし、みんなと話す時間もあって良かったでしょ?」
そう聞いたら、彼はあらぬ方向を見て、困っている様な表情を浮かべていた。
「まぁ、多少は……」
思っていたより悪くないと感じられたんじゃないかって。彼の変化に安堵の笑みを浮かべる。
すると、水無瀬さんはすぐに切り換えて、普段通りの彼に戻った。話題も変わる。
「そうだ、俺、明日休みで、今日はこっちに泊まる予定なんだけど……」
「あぁ、ホテルにですか?」
「まぁ、そう思ってたんだけど……皐月の部屋に泊めてくれないか?」
「えっ……」
思考が停止し、表情が凍る。
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