しゅらばだときづかないで

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「別にいいだろ? 泊まったこと、何回もあるし」 「いや、あの……」 (ダメだよな、絶対。もう付き合ってないし、俺には付き合ってる人が居るんだから……紫崎に心配掛けられないし)  平然と言ってくる水無瀬さんに、事務所でどう弁解しようかと思っていたら。 「係長」 「へっ!?」  後ろに、紫崎が立っていた。 「どうかしたんですか?」  話の内容を把握してるわけではなさそうだ。俺が困っている様に見えたから、声を掛けてくれたんだろう。  でも、彼の無表情に威圧感を感じるのは気のせいだろうか。  さっきのトイレの一件が霞んでしまう程、紫崎に迫力がある感じがした。 「あっ、さっきの……紫崎くんだっけ?」  思い出した様に彼の名前を口にした後、水無瀬さんはご機嫌そうに俺の肩を抱いた。 「今日、皐月の部屋に泊めてもらおうと思って、交渉中なんだ。君からも言ってもらえない?」 (ど、どういう状況なんだこれ……)  俺の居る場所だけ、雰囲気がカオスと化している。  紫崎の眉間には、深く皺が刻まれている。すごく不機嫌そうだ。  何を言うのかと、息を飲んだが。 「ホテル代、ないんですか? 貸しますよ?」  一応、冷静さはあるみたいだった。  水無瀬さんはぽかんと口を開けていたけど、すぐに鼻で笑った。 「いや、カードはあるけど……皐月とは積もる話もあるんだ。仲、良かったから」 「ちょっ!」    紫崎に見せつける様に、俺の頰に自分の頰を寄せる水無瀬さん。  すると、紫崎は俺に触れている彼の腕を握って。 「……今、係長と仲良いのは俺なんで……取らないで下さい」 「っ!?」  紫崎の口から出た、とんでもない発言に、俺の心臓は爆発寸前だった。 (えっ、ちょっ、これ、大丈夫か? こんなこと、紫崎の口から言わせて、ほんと大丈夫か? 周りの反応は……)  いろんな意味でドギマギしていて、微かに視線を動かした。  こちらに注目している目が、いっぱいある。  さっきの俺みたいにフリーズしていたり、不思議そうに顔を見合わせている男性社員。  事務要員の女性社員達はというと。 「えー……」  口元に手を当て、驚いている様子だ。 (やばいっ! 付き合ってるのバレたりとかっ)
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