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「水無瀬さんにじゃなくて俺に託してくれたあたり、課長は誰と誰が似合うかわかる嗅覚持ってたみたいですね」
「そ、それは……偶然な気もするけどな……」
一瞬ジロリと睨まれたからすかさず目を逸らして、素知らぬ態度を取った。
「あっ、酔っ払い相手にイライラはしたかもしれないけど……お世話してくれてありがとうな。課長も助かってたみたいだし」
「かなりイライラしたので、俺はもう抜けますよ。余裕ありそうな同期や先輩に任せてきたし」
イライラの理由はいろいろありそうだったけど、敢えて聞かないことにした。
「そっか、じゃあ帰るんだな。気を付けて帰……」
「帰るのは俺一人じゃないです」
「えっ……」
俺の手首を掴み、逃げられない様にしてから有無を言わせない圧を掛けてきた。
「皐月さんも帰るんです。俺の家に。俺は明日仕事だけど、そっちは休みですよね? 何度かしましたけど、休み合わなかったし、俺もホテルじゃ足りなかったですから」
「えっ!?」
(念願だった紫崎の家っ! しかもすんのっ!?)
課長との別れに打ちひしがれながら夜を過ごすものと思っていたから、完全に想定外。
が。
「逃げられると思わないで下さいね……」
紫崎の瞳が本気だから、恐いような楽しみなような複雑な気持ちで。
とりあえず、彼に逆らうことはせず、俺はおとなしく紫崎の家に連れ去られた。
─ ─ ─ ────
「どうぞ。靴脱いで真っ直ぐ進んで下さい」
「あぁ、お邪魔しまーす……」
玄関の扉を開けてくれた紫崎の脇を通り、中へ入った。
以前は俺が迎える側だったが、今日は逆の立場。
彼の案内に従い部屋へと続く扉を開けると、後ろからやって来た紫崎が明かりのスイッチを押した。
「お? おー!」
最初は真っ暗で何も見えなかったけど、明るくなってから軽く歓声を上げた。
男の一人暮らしにはちょうど良い1DK。ダイニングの家具は黒を基調としていて、シンプルながらもギラギラ感を感じる。
「そんな驚く要素ないでしょ。ここは普通です」
「でもかっこいいって! ん?」
ドライな態度の紫崎がもうひとつあるドアを開けたから、後ろから付いて行った。紫崎の身体の隙間から中を覗き見る。
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