148人が本棚に入れています
本棚に追加
/173ページ
「んっ……ん」
嬉しくて、角度を変えながら何度も紫崎の唇を啄んだ。
でも、これ以上引き留めるわけにはいかないから、やんわり紫崎の胸元を押して離れた。
「これ以上したら遅刻するから、また今度な」
「……初めて仕事行きたくないって思ったかも」
思わず笑って、やる気を注入する様に紫崎の肩を優しく叩いてやった。
「頑張ってきてくれ。……いってらしゃい」
「……いってきます」
笑顔を送ると、紫崎は俺の頭をひと撫でして家を出て行った。
まるで新婚みたいだと、甘い雰囲気に浸りながら、俺は重い身体を起こして行動を開始した。
紫崎が用意してくれた朝食をよく味わって食べてから後片付けして。沸かしてくれた風呂にゆったり身体を沈める。
朝から温かい風呂に入れるなんて、気分的には最高で。たっぷり癒させてもらった。
着替えて髪を乾かしたりした後はベット等を軽く整えて、来た時と同じ風景に戻した。
帰る準備が終わると、リビングのテーブルに置かれた合鍵に手を伸ばす。
本当だったら、なんの変哲もないただの鍵だけど、俺にとっては宝物と同等。
それを眺めているだけで表情が緩んでしまって、自分でも変質者みたいだと思ってしまった。
鍵を大事に手にした後は玄関に向かい、開けた扉を閉めてきちんと鍵を掛けた。
(よし、帰るか……)
今日の休日は一人で過ごすことになるだろうが、気分はルンルン。
鞄に鍵を仕舞ってマンションを出たら、カメラのシャッター音らしき音が後ろから聴こえてきた。
(……なんだ? っ!?)
振り返ると、苦虫を噛み潰したような女性の顔が目に入った。
「なんでっ、あんたがっ……!」
「江森さんっ」
「なんであんたが芳哉のマンションから出て来るのっ!」
「あのっ、これはっ……」
頭に血が昇っている様子の彼女に、何を話すべきか。
頭を働かせようとするが、わなわなと震える手に持たれている、彼女のスマホに視線がいく。
きっと、マンションから出てきた俺の写真を撮ったんだろう。何に使うかは知らないけど、良い目的で使うとは思えない。
最初のコメントを投稿しよう!