しあわせからのてんらく

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 冷静に話すべきだと、俺は彼女を諭すことにした。 「あの、ここだと人目が付くし……俺も君にちゃんと説明したいから……場所を変えてもいいかな?」  俺の誘いに、最初は警戒しているみたいだった。けれど、通行人からの視線等を感じて、一度冷静さを取り戻したみたいで。 「……わかった」  了承してくれた彼女に一安心はしたけど、まったく気は抜けなかった。  ─ ─ ─ ────  以前、俺がメールを誤爆した時に紫崎が駆け付けてくれたカフェの別店舗。  思い出的には、ここで彼女と話すのはどうかと思った。  けれど、午前中は空いてるし、ちょうど近くにあったからここで話すことになった。  仕切りもあるし、外よりは話しやすい。  ここに来るまで、彼女はずっと無口だった。  席に着いて、コーヒーでいいか尋ねると頷いてはくれたけど、表情は厳しいまま。  店員に何度も来られると彼女も気を使うだろうと思い、水を運んできたタイミングで注文。  コーヒーが来るまでは、俺も下を向いて黙っていた。  注文したコーヒーがテーブルに届いて、店員が去った後。彼女の方に少しだけ前のめりになって、俺は声を潜めながら喋った。 「……昨日、俺達が勤めている会社の課長の慰労会があって……紫崎が泊めてくれたんだ。泊まったのは昨日が初めてだった。江森さんは、どうしてあそこに居たの?」  江森さんはテーブルに視線を固定したまま、震える声で話し始めた。 「芳哉に聞きたいことがあって……確かめたかったから。電話しても出てくれないと思ったから、部屋まで行こうとしたら……貴方が出てきて……」  彼女は、泣き出してしまいそうな顔で声を振り絞っていた。 「少し前にもっ、芳哉のマンション前に行ったことがあって……車で貴方と芳哉が一緒に居るの見えて……」  紫崎が俺の家に泊まった次の日の、デート帰り。  その時を思い出して、目を見開いた。 (車の中で、キスした時だ……)  さっき、マンションから出てきた俺を、彼女はスマホで撮影していた。  もし、彼女が俺と紫崎のキス写真を持っていたら。そう想像しただけで、一気に恐怖が押し寄せてきた。  急に周囲の酸素が薄くなった様にも思える。
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