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「えっ、あっ!」
突然のことで俺は慌てふためき、テーブルに置いてあった紙ナプキンを何枚か差し出した。
少々乱暴にそれを受け取った彼女は、赤い目元を拭ってテーブルの方を睨んでいた。
俺に対する気持ちが吹き出した。そう思ったから、また謝罪の言葉を口にした。
「本当にごめんっ、嫌な思いをっ」
すると、彼女は勢い良く首を横に振った。
「違いますっ……芳哉のことは悔しいけどっ、自分が許せないと思って……」
「えっ、俺じゃなくて?」
「係長さんのことは、簡単に許したりは出来ないけど……貴方は芳哉のことばかり心配しているから。自分のことばかり考えている自分が嫌になったんです」
涙を拭った紙ナプキンを握り締めた後、彼女は険しい表情でスマホを取り出した。慣れた手付きで画面を操作すると、それを俺に見せてきた。
俺が紫崎のマンションから出てきた画像が写し出されている。
「証拠写真として、怒りに任せて思わず撮りましたけど……キスみたいな決定的瞬間じゃないから……こんな画像で脅したりなんて無理なのに。バカみたい……」
「でも、画像はまだあるんじゃ……」
マンションを出た時の画像以外にも何かあるんじゃないかって、俺はまだ気が抜けなかった。
江森さんは、萎れたみたいな姿で元気のない声を発した。
「キスの瞬間が撮れてたら、脅しの材料として使っていたかもしれないけど……驚き過ぎて動けなくて。芳哉が自分から進んでキスするなんて信じられなかったから……」
キス画像が残されていなかったことに安心はしたけど、彼女の前で素直に喜べなかった。
なんて声を掛ければいいか考えていたら、彼女の指先が動いた。ゴミ箱のマークをタップした様で画面は真っ暗になり、画像は跡形もなく消えていた。
江森さんの行動に驚いて、俺は変に動揺してしまった。
「い、いいの? 画像、消しちゃって……」
「一応撮りましたけど……あの画像があっても、どうにもならないし。きっと、芳哉にただ恨まれるだけで……私には何も残らないので」
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