うそつき

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「ありがとう。でも本当に大丈夫だから」  無理に笑って、紫崎の背中をぽんぽん叩き、整列を促した。  周りにもわかる様に、声も張り上げる。 「はいっ、それじゃあ朝礼始めまーす!」  紫崎はしばらく俺を見ていたけど、言う通りに作業員が並ぶ列に馴染んでいった。  水無瀬さんは朝礼が始まると俺の隣に並び、俺の姿を笑顔で眺めていた。  その水無瀬さんに紫崎の視線が鋭く刺さっていた気がするけど、なるべく見ない振り。  仕事の注意事項等を話した後、最後に水無瀬さんの紹介をして朝礼は終えた。  ─ ─ ─ ──── 「水無瀬課長、こちら今月の大型イベントの清掃依頼の予約と人工(にんく)の想定をまとめたものです。目を通しておいて下さい。それから、作業員達から備品の新調申請と、お客様の声に対する対処をまとめたもので……」 「初日から働かせるね、ここの係長さんは」 「俺の仕事は課長のサポートですから」  俺から書類を受け取った水無瀬さんは、そう言いながらも明るい表情だった。 「けど、皐月とこうやって仕事出来るの嬉しいかも。約一名、俺を敵視してるから視線が痛かったけどな」 「そうですか……」  心のモヤモヤがなければ笑って誤魔化したり、焦って怒ったりしたんだろうけど。  声も表情もつい沈んでしまい、異変を感じ取られたらしく、水無瀬さんは俺を凝視していた。  視線に気付いてはっとし、慌てて笑みを作る。 「あっ、はははっ……大人げなく喧嘩とかしないで下さいね」  すると、じーっと俺を見ていた彼は、無表情で意表を突いてきた。 「…………もしかして、もう険悪だったりするのか?」  そうではないけれど、俺の気持ちはそっちに向かっていそうで、ドキリとした。 「ちっ、違いますよっ。それじゃあ資料に目通しておいて下さいっ。俺備品チェックしてきますからっ」  水無瀬さんに背中を向け、話はすぐに切り上げた。そうしないと、不安な気持ちを見透かされそうだと感じたから。 (江森さんとのことはもう大丈夫だし、何も心配はいらないのに……なんで不安消えないんだ。前は抱かれてただけで満たされてたのに……)
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