148人が本棚に入れています
本棚に追加
/173ページ
「ありがとう。でも本当に大丈夫だから」
無理に笑って、紫崎の背中をぽんぽん叩き、整列を促した。
周りにもわかる様に、声も張り上げる。
「はいっ、それじゃあ朝礼始めまーす!」
紫崎はしばらく俺を見ていたけど、言う通りに作業員が並ぶ列に馴染んでいった。
水無瀬さんは朝礼が始まると俺の隣に並び、俺の姿を笑顔で眺めていた。
その水無瀬さんに紫崎の視線が鋭く刺さっていた気がするけど、なるべく見ない振り。
仕事の注意事項等を話した後、最後に水無瀬さんの紹介をして朝礼は終えた。
─ ─ ─ ────
「水無瀬課長、こちら今月の大型イベントの清掃依頼の予約と人工の想定をまとめたものです。目を通しておいて下さい。それから、作業員達から備品の新調申請と、お客様の声に対する対処をまとめたもので……」
「初日から働かせるね、ここの係長さんは」
「俺の仕事は課長のサポートですから」
俺から書類を受け取った水無瀬さんは、そう言いながらも明るい表情だった。
「けど、皐月とこうやって仕事出来るの嬉しいかも。約一名、俺を敵視してるから視線が痛かったけどな」
「そうですか……」
心のモヤモヤがなければ笑って誤魔化したり、焦って怒ったりしたんだろうけど。
声も表情もつい沈んでしまい、異変を感じ取られたらしく、水無瀬さんは俺を凝視していた。
視線に気付いてはっとし、慌てて笑みを作る。
「あっ、はははっ……大人げなく喧嘩とかしないで下さいね」
すると、じーっと俺を見ていた彼は、無表情で意表を突いてきた。
「…………もしかして、もう険悪だったりするのか?」
そうではないけれど、俺の気持ちはそっちに向かっていそうで、ドキリとした。
「ちっ、違いますよっ。それじゃあ資料に目通しておいて下さいっ。俺備品チェックしてきますからっ」
水無瀬さんに背中を向け、話はすぐに切り上げた。そうしないと、不安な気持ちを見透かされそうだと感じたから。
(江森さんとのことはもう大丈夫だし、何も心配はいらないのに……なんで不安消えないんだ。前は抱かれてただけで満たされてたのに……)
最初のコメントを投稿しよう!