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しどろもどろになってきて、何をどう話せばいいのかわからなくて。頭の中はパニックだった。
(江森さんのことは言えないし、紫崎といつまで関係続くか不安なんて、もっと言えないし……何話せばいいんだ、俺)
だんだん、紫崎の瞳が好きな相手に向けられるものじゃなくて、他人に対するものに思えた。
ゲイであることをずっと隠して自分を偽り続けて、やっと真実を話せた人なのに。その人に自分の気持ちを晒すのがもっと怖く感じて。
それで俺は、一番先の見えない真っ暗な方に逃げてしまった。
「……ごめん、紫崎っ。俺やっぱり……紫崎と付き合えないっ」
思わず、後戻り出来ない弱気な発言を吐いていた。
「………………は?」
俺の言っていることが突拍子なさ過ぎて、紫崎の反応は五秒程遅れていた。
合鍵を貰ったことは本当に嬉しかったと言ったばかりなのに、発言は矛盾している。
でも、そんな細かいことに俺が気付くなんて無理だ。
俺は勢いに任せて、つい間違った解決策を用いてしまった。
至って真面目に。でも、顔面の血の気が引いて、冷や汗を足らしているみたいな感覚に陥りながら。
自然に震える小さな声で、喋り出した。
「お、俺……紫崎のこと好きだけど……このままだと苦しいからっ、もう紫崎に抱かれたくないっ。俺とは一度別れて欲しいっ」
彼が何かしらの事態で俺から離れてしまう前に、俺は自分と紫崎に嘘を付いた。
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