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「癒えそうになかったら……俺が力貸すけど? 昔みたいに」
(手付きエロいっ)
甘い言葉が魅力的に聴こえるし、彼の指使いが俺を昂らせてくるけれど。
漠然と、何かが違うって感じた。
水無瀬さんはそのまま俺の背中を撫でながら、出会った頃の話を持ち出してきた。
「最初は陰のあるタイプだと思って気になってたけど、同じゲイで、カミングアウトのことを引き摺ってるって知った時……俺で全部忘れさせたかった。何もかも忘れて、俺に溺れて欲しかったからあーしたのに……」
最初は、純粋に優しくしてくれる水無瀬さんが好きだった。話を聞いて、俺は昔の自分を思い出す。
カミングアウトの失敗があったから、人とはなるべく関わらない生活を送っていた。
だから性格は暗かったし、今みたいに明るく振る舞ったりなんて出来なかった。
そんな俺を見付けてくれたのが水無瀬さんで。同じ苦労をしてきた仲間だったから惹かれたんだ。
付き合ってからは、辛いことを忘れさせてくれるみたいに激しく抱いてくれた。
元々興味があったことだけど、水無瀬さんの行為で俺の興味に拍車がかかって。気付いたら、こんな性癖になってた。
水無瀬さんが居れば何も要らないって、あの頃は本当にそう思っていた。
でも、俺と彼は違った。
水無瀬さんは俺の背中を撫でたまま、後悔している様に話を続けた。
「ノンケを見返す為に必死に仕事して……昇進が望める、より良い職場に転勤も決まって。お前は応援してくれると思っていたのに、上を目指す俺に、自分は邪魔になるって聞かなくて……あの時諦めずに説得してればって何度も思ったんだぞ? そうしていたら、こんなことにもならなかっただろ?」
彼の言葉は、俺を甘く誘惑してくる。本当にそうだったんだろうかと、気持ちもひどく揺れた。
けれど、あの時の気持ちを思い出すと、邪魔になると思っていた以外にも理由があった。
それがきっかけになって、俺と水無瀬さんの違いや、紫崎と彼との違いも見えてきた。
「そっか……」
「ん?」
優しげな鼻濁音を合図に、俺は身体を起こした。
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