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昔のことを懐かしく思いながら、俺は素直に自分の気持ちを口に出していた。
「俺、確かに自分が邪魔になると思って別れたいって言ったけど……他にも理由あった」
出会ってきた課長や部下、同僚達のことを思い出して、俺からは自然と笑みが零れていた。
「俺、きっとここから離れたくなかったんです。水無瀬さんが転勤するって聞いた時は、会社辞めて付いていくことも一瞬考えたけど……それは嫌だった。紫崎が入社する前だったけど、多分自分が思っている以上にここが好きだったから。嘘を付かなきゃいけない環境でも」
水無瀬さんの顔を見上げたら、理解出来なさそうに顔をしかめていた。
「俺、カミングアウトしてから人と関わるのすごく怖かったけど、ここに居る人達は大学に居た友人じゃないし。当たり前だけど、いろんな人が居て……多分水無瀬さんみたいにノンケ全員を嫌いにはなれなかったから、ここに居たかったんだと思う」
その気持ちがあったから、ノンケの部下達も愛でられた。
向き合って来なかった感情で、気持ちは軽くなりつつある。
そして、改めて二人の違いにも気付いた。
「水無瀬さんが俺の過去を忘れさせようとしてくれたのは優しさだったと思うけど……相容れないって決め付けて、自分と同じ様にノンケを嫌わせようとしてたでしょ。それで、俺を思い通りにみたいな……俺はそういう水無瀬さんの気持ちに気付いちゃったんだと思う」
苦笑いを浮かべて話す俺に、水無瀬さんの表情は少しずつほぐれていった。
そして、紫崎を想うと、俺の心は温かになった。自分の胸に手を当てて、その温度を感じる。
「紫崎は、いつも自分の道貫いてて……他人が自分のことをどう思おうが全く気にしてなくて。危なっかしく思えたけど、俺は無意識に、そういう所に憧れてたんだろうな。だから、好きになってた」
けれど、そう言いながら、別れた後悔は重くのし掛かってきた。
「でも、嘘まで付いて別れちゃったからな……ほんとやばいな俺」
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