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またどんよりした気持ちが蘇ってきて、今度は頭を抱えた。
すると、黙って聞いていた水無瀬さんは、真剣な顔付きで久しぶりに口を開いた。
「そんなに好きなら、なんで別れたんだ? 他人を気にしないタイプなら、まだ大丈夫な要素はあった筈だろ」
紫崎のことを理解し始めている彼に仄かな嬉しさを感じながら、俺は姿勢を正した。
理由も、俺の中ではなんとなくわかり始めていて。
「……なんであんなことしたんだってずっと思ってたけど、多分別れるってことに慣れようとしたんですよ」
終わりを想像してびくびくする自分を強くする意味合いもあった。自分の中ではそうも解釈していた。
「いつかは、関係性を反対されて、別れなきゃいけない時が来るって思ってたから……一回自分でそうしたんだと思う。今も好きだし、紫崎には悪いことしたけど……決めたからにはしばらくこのままで居ます。紫崎が俺を嫌になったなら、それは受け止めるし……」
今まで認めたくなかったことを、水無瀬さんの前でははっきり口に出していた。
「俺の恋愛は、なかなかうまくいかないって、最初からわかってたことだから」
強がって笑って見せると、水無瀬さんは腕を組んで溜め息を吐いた。
「お前は決めたらそのまま突っ走るから……俺が何してもなびかないし、俺の所には戻らないか……」
「別れた当初は水無瀬さんのことも引き摺ってたけど……部下達を可愛がる様になってたら俺は辛い気持ち忘れてましたよ。水無瀬さんも、そうしてみたらどうですか? 昔よりは、自分達以外の人も受け入れられる様になったんじゃないですか?」
引き継ぎの為の顔合わせ後に、水無瀬さんが事務所でみんなに見せていた笑顔。あれは本物であって欲しいって云う想いもあって、彼に問い掛けた。
水無瀬さんは肩を竦めて笑った後少し歩いて、自分のデスクにある鞄を手に取った。
「皐月と別れた後、転勤先では仕事一筋で……極力誰にも関わらずに居ようって思ってたけど、何故か周囲がそうさせてはくれなかった。その空気感が嫌じゃなかった自分には驚いたけど……」
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