ぶかとふたり

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 とても強く寂しさは残っているけど、少し時間が経って、二日が過ぎた。  事務所で顔は合わせるけど、あれから紫崎との会話は一切ない。  ただ仕事をして、家に帰るだけの繰り返し。  本来なら、部下達を愛でる習慣を足せば俺は満たされる筈だった。でも、今はそんな気にもなれなくて、部下達との交流は控え目になっている。  たまに視界に入る紫崎は以前とそんなに変わらない。  真面目に仕事に取り組んでいて、それでもマイペースで。自分の思う様に仕事をしていた。  別れを告げた日、社食から戻ってきた彼は様子がおかしかったけど。今の彼にそんな様子はない。  それで良いと思っている自分も居るけど、たまには寂しそうにして欲しい、なんて。自分で振った癖に勝手なことも考えてしまう。  ほんとなら、明日は俺と紫崎は休みが合う日で、付き合っていたら約束を交わしていただろう。  けど、そんな約束を交わすことはもうない。  仕事が終わると紫崎はさっさと帰っていったし。今日も遅めの退勤だった俺は、一人寂しくとぼとぼと家に向かっている。  この時に、いつも考えてしまうのは、貰った宝物のこと。 (……また紫崎に合鍵返せなかったな)  もう恋人じゃない俺に持つ資格はないから、返さなきゃとはいつも思っている。  でも、鍵を返したら紫崎との接点が本当になくなってしまいそうだから、行動には移せず。  何度目かわからない溜め息を吐きながらマンションに到着して、エレベーターに乗った。  自分の部屋の階に着くと、重たい足取りで廊下を進む。  うつ向きがちに歩いていたら人の気配を感じて、顔を上げた。 「え……」  俺の部屋がある奥の方で、人がしゃがんでいる。  膝に顔を埋めていて、誰かはわからない。  でも、雰囲気がよく知っている人物に思えた。 (まさか……)  恐る恐る近付くと、彼がしゃがんでいたのは、俺の部屋のドア前。  彼の傍らには大きい鞄があって、身体は大きいけどまるで家出少年みたいだった。雰囲気は今の俺みたいに沈んでいる。  話し掛けていいものか迷ったが、戸惑いつつも声を掛けた。 「む、紫崎……?」
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