ぶかとふたり

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 照れくさいけど、目線を逸らしながら言ってみる。   「ツマミ……よかったら何か作るけど……」 「甘い卵焼きで」 「っ……わかった」  即答だったから笑ってしまったけど、注文を聞き入れた俺はまず着替えることにした。    ─ ─ ─ ────  キッチンで卵焼きやその他のツマミを調理し、テーブルに並べて数十分。 「……え、遠慮しないで、いっぱい食べていいからな?」 「はい……」  二人で並んで座って飲み出したが、別れたばかりの二人の会話が弾む訳など無く。室内にはテレビの音声だけが響いていた。 (別れた理由とか聞かれないだけ有り難いけど……この状態は紫崎にとってはどうなんだ……)  横目で彼を確認したら、紫崎はビール片手に卵焼き等を食べ、視線はテレビ。  退屈そうな印象や、気まずい雰囲気も見受けられず、至って穏やかだった。  この状況はいささか気になるけれど、家に人が居るのは悪くない。  もう慣れたが、仕事以外の時間帯はずっと孤独。  思えば、この家に入れたのは紫崎と水無瀬さんだけ。当たり前だけど、それ以外はずっと一人だ。  誰かを招きたくても、自分を隠していたから招けなくて、孤独に慣れるしかなかった。  家で飲んだら歯止めが利かなくなるし。隠している自分が知らない内に顔を出すと思うと、怖くて実行出来なかった。 (……紫崎はいろいろ知ってるし、飲むの我慢しなくてもいいんだよな……)  素面のままだと会話も出来そうにないし、とりあえず俺も、黙々と酒を飲むことにした。  グビグビ飲んで、ツマミ食べて、テレビ見て。  無言だから酒のペースも速いし、細かく確認はしなかったけど。紫崎が持ってきた酒の中には、俺が普段飲まないアルコール度数高めの酎ハイもあった。  缶が空になると、紫崎が率先して酒を持ってきてくれたけど、持って来るのはその酎ハイ。  渡されるままガバガバ飲んで、三缶目ぐらいになると俺はもうベロンベロン。  それからどうしていたのか、俺には全く記憶がない。  ─ ─ ─ ──── 「…………え?」  気付いたら、ベットに横になっていた。  小鳥がチュンチュン鳴いているのが外から聴こえてきて、朝になっていることに驚く。
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