147人が本棚に入れています
本棚に追加
/173ページ
しかも。
「起きたんですね。おはようございます……」
隣には紫崎が居て、俺は彼の腕枕で寝ていた様子。
素早く飛び起きてベットから立ち上がり、後退りした。
「ちょっ、えっ、待って! 昨日泊めることにはなっただろうけど……これはどういう……」
頭を抱えてみたり、顎に手を当ててみたり。慌てながら考えるけど、何も浮かんでこない。
そして、一度よく確かめたのは、俺と紫崎の服装。
「……ちゃんと服着てる」
見ればわかるけど、自分の胸元に手を這わせて、布の感触をちゃんと認識した。
紫崎は身体を起こすと、当然の様に言った。
「昨日は部下として来たって言ったじゃないですか。何もしてないですよ」
「そ、そっか……」
安心するとこなのに、なんだか残念な気持ちも浮かんでくる。
そんな気持ちを見透かしたみたいに、紫崎は立ち上がって俺の側に寄り、頬を撫でた。
「何かあった方が嬉しかったですか?」
「えっ、あ、それはっ……」
あたふたして答えに迷っていたら、紫崎はふっと笑った。
嬉しそうな笑みにドキッとしていたら、紫崎は俺を引き寄せ、抱き締めた。
久しぶりの感覚に、胸がときめいた。
でも、こんなことされる資格、俺にはない。
「紫崎っ、放してくれっ」
身じろぐけど、彼は力を緩めようとは一切しなかった。それどころか、更に身体を密着させて、俺の身体のラインを大事そうに撫でた。
消そうとしても消えなかった気持ちが、溢れそうになる。
「すみません」
「え……」
「少しだけ……今だけ許して下さい」
紫崎の声が真剣なのは、すぐにわかった。強く拒否する気にもなれず、一旦は従うことに。
すると、彼は昨夜のことについて言及した。
「昨日、皐月さんが何を考えているのか、だいたいはわかりました。だから、今はこうしたいんです」
(昨日の俺は紫崎に何言ったんだ……)
酔って理性を失くした淫らな自分が一瞬頭を過って、嫌な汗を掻いた。
けど、少し身体を離した紫崎の表情は真面目なもので、そんな想像は俺からすぐに消えた。
「……今日は、俺に付き合ってもらえませんか?」
俺とがっちり視線を合わせた紫崎。その声はとても切実で、断ろうとは思わなかった。
最初のコメントを投稿しよう!