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アルコールのせいで顔が赤くなっていく皐月さんを横目に見ながら、俺はドキドキしていた。
(企み、バレてないよな……強引だったから、変に思われたかもしれないけど。もう少し立ち回り方考えてくんだった……)
酒が空になると、積極的に取りに行って、わざと度数の高い缶ばかり皐月さんに渡した。
部下として飲みに来たなんて、嘘まで付いて。相手の気持ちなんて関係なしに家に上がり込んだ。
今の俺は、ずいぶんと余裕がなくて、格好悪いけど、そんなこと気にしてられなかった。
少しの罪悪感と、触れたい気持ちを必死に抑えながら、俺はその時を待っていた。
─ ─ ─ ────
「お、俺……紫崎のこと好きだけど……このままだと苦しいからっ、もう紫崎に抱かれたくないっ。俺とは一度別れて欲しいっ」
合鍵を渡した次の日、皐月さんはいつも通り元気に会社に来るものだと思っていた。
でも、違った。
言われたことが信じられなくて、焦った様に食堂から逃げていくあの人を追う余裕もない。
ただ、一人残されて、頭の中で言われた言葉を復唱していた。
(もう抱かれたくない……一度別れて欲しい……ほんとにあの人がそう言ったのか……?)
訳がわからなくて、心にも初めての感覚があった。
棘ついたものが何度も刺さって、一気に全身が冷たくなっていく。
甘かった昨日が、今日の苦さで全部塗り潰された。
あまりの衝撃で動けずに居たら、後ろに気配を感じた。
「雰囲気があまり良くなかったみたいで、人も寄り付いてないと思ったら……君が居たからだったみたいだな。それにしても驚いた」
驚いているって言う割には、愉快そうな声だったけど、後ろを向く気力もなかった。
水無瀬は俺の横顔にニヤ付いた顔を寄せて、肩を叩いた。
「まさか、君が振られる所が見られるなんてな。君は傷付いただろうが、遅かれ早かれこうなってたんだ。早い内にコタを忘れられる時間が出来て良かったと思うよ?」
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