きもちがしりたくて

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 俺が呼んだこともない水無瀬さんの可愛らしい愛称に、嫌味ったらしい慰め。  愛称は可愛いと感じたが、何故だか慰めには全然イライラしなかった。  憎たらしい相手の言葉が怒りに直結しない程、俺はショックを受けていた。 「えっ……」  事務所に戻る為、テーブルに手を着いて立ち上がろうとしたが 、手足に力が入らない。そのまま床にへたり込んだ俺に、水無瀬は本当にびっくりしていた。 「おまっ、大丈夫か!? そのままじゃ一人で戻れないだろっ」  食器は周りの奴等に頼んで、水無瀬は俺の身体を支えて事務所まで運んだ。  周囲に注目もされたけど、心にぽっかり穴が空いたみたいで、何も思わなかった。  事務所に着くとソファに座らされ、同僚達も心配してくれたけど。 「大丈夫か? 係長も様子変だし、食中毒とかじゃないよな?」 「は……?」  席に着いている皐月さんを見ると、顔を突っ伏していて表情は確認出来ない。でも、確かに落ち込んでいる様子だった。 (俺を自分から振っておいて落ち込むって……)  水無瀬さんが突拍子のないことをする時は、だいたいが俺の為だったりした。だから、もしかしたらって、淡い期待が徐々に出てきた。 「……顔洗ってくる」  いきなり立ち上がった俺に周囲は驚いていたけど、そのままトイレに直行。  顔を勢い良く冷水で洗ったら、頭が冷えた。 (理由は知らないけど、あれは絶対なんかある……しかも「一回別れて欲しい」って、もう一回付き合う余地があるってことだよな……)  会社で問い詰めたくなる様な気持ちもあったけど、それは逆効果だって理解してる。  でも簡単には諦めきれなくて、皐月さんの気持ちを探る方法を考えて。  行き着いた方法は、とても悪どいものだった。  ─ ─ ─ ────  酎ハイが三缶目くらいになると、皐月さんは顔が赤く、目元もとろんとしていた。 (これだと、頭は回らないだろうけど……本音は聞ける)  今回の件を普段の皐月さんから聞くのは、怖かったのかもしれない。  別れるって決めるくらいなら、かなりの覚悟あってのことで、何言っても覆らない。そんな気もしていたけど、どうしても皐月さんの本音が聞きたかった。
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