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昨日は突然来たからって、朝食は外の和食チェーン店で一緒に食べた。
デートみたいな感じかと思ったけど「美味しい」とか「そうですね」とか。
そういう少しの会話があっただけで、甘い雰囲気になったりはしなかった。
その後は、紫崎に付いて来て欲しいって頼まれて、車である場所にやって来た。
紫崎が住むマンション近くの例のカフェ。
江森さんと話した場所だったから、気持ち的にはそわそわしていたけど、中に入って驚いた。
店員さんに来店人数を聞かれた紫崎は、待ち合わせしていると告げ、ある席に向かった。
その席に座っていたのが。
「えっ、江森さん!?」
俺を見た彼女は慌てて立ち上がり、俺に深く頭を下げた。
「あの、この前はすみませんでした!」
「あ、いや……」
謝られて焦る俺を、紫崎は不思議そうに見ていた。
「……何かあったんですか?」
彼には何も言ってないから、紫崎の反応は正常なもの。でも、江森さんはこの反応に戸惑って、俺の顔色を窺っていた。
「あの、芳哉にこの前のことがバレたんじゃ……?」
「いや、あれは……二人の秘密って言っていたから……俺は何も……」
お互い顔を見合わせていたら、紫崎は俺の背中を軽く押した。
「とりあえず、二人共座って」
俺も江森さんも、お互いなんで呼ばれたかわからないまま、紫崎に促されて椅子に座った。
俺の隣に座った紫崎は、俺に注文を確認し、店員さんに二人分のコーヒーを注文。
店員さんが去ると、彼は俺の顔を覗き込んできた。
「で……さっき言ってたこの前のことって?」
「えっ! あ、いや……」
(紫崎の前で彼女のことを言うのは……ちょっとな……)
目を泳がせている俺を気遣ってくれたのか、江森さんは震える声で喋り出した。
「私、二人が付き合っていることを知って……係長さんを脅そうとしたの……」
空気が、張り詰めた気がした。
紫崎の視線は、ゆっくり江森さんに向けられる。
それで、観念したらしい彼女は、素直に自分のしたことを緊張した様子で話し出した。
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