やくそく

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「智彩が俺の為に動いてくれたこともいっぱいあっただろうけど……俺はそれに見向きもしなかった。一生懸命向き合ってくれようとしてくれたのに、気持ちを素直に受け取ろうともしないで。捨てられたのも自分が悪いくせに勝手に不貞腐れて……本当に俺はどうしようもない奴だった」  今までの痛みを受け止めてもらった彼女は、目元を潤ませていた。  俺は江森さんを見ながら、紫崎の態度を好ましく思っていたけど、同時に切なさが募った。 (この流れだと、二人は元サヤに戻るかもしれないな……)  自分から別れてくれと言った手前、紫崎の行動は止められない。  店員さんがコーヒーを運んで来てくれたタイミングで、一度話は区切られたけど。店員さんが去った後に話の続きを聞くのが少し怖かった。 「皐月さんに別れて欲しいって言われた時に、初めて好きな人が離れていく辛さに気付いた。俺が今、こうやってお前がしたことに気付けたのは、皐月さんが俺と別れてくれたからだ」  俺は辛い気持ちを隠す為にうつ向いて、笑みを浮かべていたけど。 「大事な人に振られる痛みとか知って、好きな人の為に何が出来るのか考えた時に、最初に思い付いたのがお前に詫びることだった。今の俺のままじゃ、皐月さんを幸せにするなんて何年掛かっても無理だから」  思わず、視線を彼に移した。  江森さんは紫崎と目を合わせ、彼の真意をしっかり聞こうとしていた。 「今思うと最低だけど……昔の俺は相手に好きになってもらったらそれっきりで、愛情返そうとか、自分も相手好きになろうって努力とかも一切しなかった」  バーで恋愛の話をしていた時の紫崎はとても煩わしそうで、相手に関心はなさそうだった。  本当は優しいけど、長続きしなかったのはそういう部分があったからなんだろう。  江森さんは「そうだったね」って、悲しそうに笑っていた。 「皐月さんを好きになってからは、嫌な想いさせたくないとか、もっと釣り合うようになりたいとか考える様になってて、好きで居てもらう大変さにも初めて気付いた。けど、今までの俺は智彩の努力を見ない振りしてたのに、今皐月さんに戻ってきて欲しいと思うのはなんか違う気がして。だから、今までのことを謝りたかった」
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