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あの出来事から、随分月日が流れた。
俺が紫崎を振った後はただの上司と部下になっていたけど、今は仲の良い上司と部下だ。
「お疲れ、紫崎。今日どうする?」
「今日はがっつり飲みに行きたいです。明日休みでしょ?」
「じゃあ今日行きたい所は紫崎が決めて良いぞ。いつも俺の行きたい所に付いて来てくれるし」
「わかりました、じゃあ着替えてる間に考えておきますね」
「あぁ。楽しみだ」
俺との予定が何処と無く嬉しそう。そんな風に都合良い解釈して、俺は微笑みを返した。
あれから、もう少しで二年。
俺の不安な気持ちは消えていて、今は唯々紫崎と居る時間が楽しい。
紫崎と触れ合えないって後から実感して、欲求不満の心配も何度かしていたけれど。その分紫崎と過ごす時間はとても多かった。
仕事が終わるとご飯食べに行ったり、飲んだり。休みが合えばお互いの家に遊びに行ったり、一緒に映画館とか買い物に出掛けたり。
付き合っていた頃よりも、一緒に居る時間は長いかもしれない。
そういう新しい紫崎との関係性も、俺は好ましく感じている。
けど、紫崎のある変化で、最近は焦りも感じつつあって、新しく悩みも出始めていた。
紫崎と一旦別れて帰る準備をしようとしたら、ある光景に目が止まった。
ロッカーの上にダンボールを置こうとしていた女性社員を、紫崎が手助けしていて。
頭を下げる彼女に紫崎は構わないと優しく微笑み、女性社員はときめいている様子。彼女だけでなく、周囲の女性達もそんな紫崎に釘付けになっていた。
こんなコソコソ話も近くで聞こえてくる。
「紫崎君、なんかすごく優しくなったよね……雰囲気柔らかくなって、話し掛けやすくなったし」
「かなりかっこいいかも……ご飯誘っちゃおうかな!」
そんな話を聞かされると、俺としてはヒヤヒヤしてくる。
『じゃあ、最初からやり直しましょう。皐月さんの気持ちが強くなって、また俺と付き合いたくなったら……言って下さい。それまでに俺も、皐月さんに見合う男になれる様に努力して……貴方が大丈夫になるまでいつまでも待ってますけど……その後は、一生貴方を放しませんから……覚えておいて下さい』
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