もどりたくて

2/8

147人が本棚に入れています
本棚に追加
/173ページ
 あの出来事から、随分月日が流れた。  俺が紫崎を振った後はただの上司と部下になっていたけど、今は仲の良い上司と部下だ。 「お疲れ、紫崎。今日どうする?」 「今日はがっつり飲みに行きたいです。明日休みでしょ?」 「じゃあ今日行きたい所は紫崎が決めて良いぞ。いつも俺の行きたい所に付いて来てくれるし」 「わかりました、じゃあ着替えてる間に考えておきますね」 「あぁ。楽しみだ」  俺との予定が何処と無く嬉しそう。そんな風に都合良い解釈して、俺は微笑みを返した。  あれから、もう少しで二年。  俺の不安な気持ちは消えていて、今は唯々紫崎と居る時間が楽しい。  紫崎と触れ合えないって後から実感して、欲求不満の心配も何度かしていたけれど。その分紫崎と過ごす時間はとても多かった。  仕事が終わるとご飯食べに行ったり、飲んだり。休みが合えばお互いの家に遊びに行ったり、一緒に映画館とか買い物に出掛けたり。  付き合っていた頃よりも、一緒に居る時間は長いかもしれない。  そういう新しい紫崎との関係性も、俺は好ましく感じている。  けど、紫崎のある変化で、最近は焦りも感じつつあって、新しく悩みも出始めていた。  紫崎と一旦別れて帰る準備をしようとしたら、ある光景に目が止まった。  ロッカーの上にダンボールを置こうとしていた女性社員を、紫崎が手助けしていて。  頭を下げる彼女に紫崎は構わないと優しく微笑み、女性社員はときめいている様子。彼女だけでなく、周囲の女性達もそんな紫崎に釘付けになっていた。  こんなコソコソ話も近くで聞こえてくる。 「紫崎君、なんかすごく優しくなったよね……雰囲気柔らかくなって、話し掛けやすくなったし」 「かなりかっこいいかも……ご飯誘っちゃおうかな!」  そんな話を聞かされると、俺としてはヒヤヒヤしてくる。 『じゃあ、最初からやり直しましょう。皐月さんの気持ちが強くなって、また俺と付き合いたくなったら……言って下さい。それまでに俺も、皐月さんに見合う男になれる様に努力して……貴方が大丈夫になるまでいつまでも待ってますけど……その後は、一生貴方を放しませんから……覚えておいて下さい』
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

147人が本棚に入れています
本棚に追加