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ちょっと心配になってきて、変な汗を掻いてきた。
「紫崎君が誰かと付き合い始めたら、俺が時間埋めてやっても……」
内容は完全無視だけど、からかう様に喋っていた水無瀬さんの動きが急に止まった。
「どうしたんですか?」
「いや……」
紫崎が居る方向を眺めていた彼が苦笑いを浮かべていたから、俺も振り返った。
ちょうど紫崎が動き出して事務所から出た所で、何が起こっていたかはちんぷんかんぷん。
もう一度、水無瀬さんに顔を戻したら、呆れた様子で笑いながら肩を竦めていた。
「ほんと、距離感変わったのにどっちも隙ないな」
「へ?」
「いや、こっちの話」
なんのことかわからず首を傾げていたけど、水無瀬さんは腕を組みながら話の論点を戻した。
「それより……どうするんだ? 俺は皐月が一人になるならそれはそれでいいけど……このままで行くのか?」
「それは……」
踏ん切りがつかず、煮え切らない態度で居ると、大きい溜め息が聞こえてきた。
「そんなに迷うなら、まだ脈があるか試してみればいいだろ」
「試してみるって言っても……」
最初は乗り気じゃなかった。
でも、水無瀬さんの言葉に突然はっとした。
(最近は飲んだりしてただけだし、色事からは離れてたから紫崎は俺がそんなことするとは思わない筈……。でも、俺の色仕掛けで紫崎が反応してくれたら……脈はあるのかもな)
長らく欲求不満のせいで麻痺していたけど、抱かれたい願望と一緒に俺の頭は覚醒し始めた。
─ ─ ─ ────
今日の飲みの場は、前に紫崎の同期達と一緒に来た、焼き鳥が美味しい居酒屋チェーン店。夕方になって賑わい始めた頃に二人で来店し、座敷に座った。
思えば、ここに二人で来たのは初めてだ。
紫崎がここを選んだのは多分偶然。けど、紫崎と初めて触れ合った時に来た店だったから、俺のやる気は余計増していた。
そんなことを知らずに、紫崎は段取り良くタブレット端末を操作している。
「皐月さん、最初に何飲みますか?」
「あ、ビールで! 俺もメニュー見たい!」
「あ、じゃあ……」
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