もどりたくて

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 そして、力無く自分の席に戻った。  紫崎が選んでいたビールと、自分のレモンサワーを頼み、飲み物と紫崎が来るのを待った。 (今日はとことん飲んで、純粋に紫崎との飲みを楽しも……酔って泣きそうにならないといいけど……)  空元気で笑顔を心掛けると決めたけど、紫崎が戻ってくるまでは目頭を押さえていた。  数分したら紫崎が戻ってきたから普段通りに振る舞おうとしたけど。 「あ、お帰り紫さ……え?」  彼はさっきまで座っていた席じゃなくて、俺の隣に座った。  そのタイミングで頼んでいた飲み物が運ばれてきて、紫崎はそれを自然と俺の前へ置いた。 「どうぞ、皐月さん」 「あ、あぁ……ありがとう」  さっきの自分の行動を相手は不快に感じたと思っていたから、戸惑いを隠せなかった。  紫崎は平然と隣でビールを飲み、その場から動こうとはしない。  ペースが速かったから酔っているだけかと。気にしない様にしながら自分もグラスに口を着けていたが。 「皐月さん、俺に何か言いたいこと、ありますか?」 「え……」  隣で、確かに彼はそう言った。  紫崎の方を向くと、彼の視線は真っ正面。敢えて視線を外してくれている様に思えた。  アルコールのせいだろうが、表情も赤い。  彼の言葉は俺がずっと考えていたことについて言ってくれている気がした。けれど、独りよがりじゃないかって考えが浮かんで、言葉に出来そうになかった。  ずっと黙っていると、紫崎はジョッキをテーブルに置いた。  周りは喧騒で満ちているのに、二人の間には静けさがあった。  その空気感に一種の怖さもあったけど、それはすぐに掻き消された。 「ぁっ……!」  紫崎が、俺の膝の上にある手を握ってくれたからだ。  俺が触れることに対して、嫌がっていたとばかり思っていたから、とてもびっくりしていた。  そして、紫崎は真っ正面を見据えたまま、言葉を続けた。 「しばらく何もなかったから、すぐには気付けなかったんです。皐月さんが心を決めるまで、触れちゃダメだって思ってたから……さっきはあんな風にしてしまったけど……」
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