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彼は縋る様に俺の手を強く握って、今度は俺の瞳を見て、はっきり言った。
「俺に言いたいこと、あるんじゃないですか?」
俺の言葉を、強く求めてくれている。そう感じると、涙と一緒に言葉が溢れた。
「俺のこと、嫌いになったんじゃないのか……?」
「嫌いになってたら毎日の様に近付かない」
「脈があるのか確かめようと思っていろいろしたけど……色仕掛け、嫌がられたと思ってた……」
「最初は勘違いかと思ってたけど、気持ち抑えるの大変だった。長年欲求不満だから」
紫崎は、困った様に微笑んでいた。
何を言っても、すかさず答えが返ってくる。だから、間髪入れずにぐちゃぐちゃな表情で、小さく告げた。
「俺ともう一回、付き合ってくれますか……?」
「もちろん……」
場所が、居酒屋で助かったかもしれない。周りには酔っ払いしか居ないから。
泣き上戸の上司と、笑っている部下が抱き合ってじゃれている様にしか見えないんじゃないか。
大きな幸せを実感しながら、今はそう思っておくことにした。
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