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「おはようございまーす! 朝礼始めるので着席してる人は起立して下さーい! お願いしまーす!」
始業を報せるチャイムが鳴ると、俺は事務所内で声を張り上げた。
あらかじめデスクに席着いていた事務要員達は俺の声に従い、その場に立ち上がった。
外で実務にあたる作業員達は雑談をして時間を潰していたが、切り上げて姿勢を正し始めている。派遣も含めると人数が多く、デスク後ろの壁側に整列していた。
彼等は青を基調とした半袖の作業着を身に纏っていて身軽。今は夏仕様で、長袖のジャンパーで見えない腕の筋肉等がちらほら晒されていた。
そのせいで、日々の癒しにしている部下達へつい欲望に満ちた眼差しを送ってしまう。
が、今まで築いてきた努力を水の泡にしたくはない。不審がられない様、物欲しそうに緩み掛けた自らの表情は爽やかフェイスに変化させた。
「おはようございます。今日も一日、企業や顧客の皆様に過ごしやすい環境を届けられる様、丁寧かつ真心込めての作業をよろしくお願いします」
うちの会社は掃除用洗剤の開発や販売、企業や一般家庭への清掃代行サービス等を行う大手の支社。
俺が配属しているスポット課は定期的な清掃ではなく、単発的で大掛かりな清掃を承る。
素人が掃除をするのが難しいエアコン、浴槽のエプロンや換気扇。企業のイベント会場の床清掃等の依頼を受ける。
係長である俺は、事務要員や作業員の指導者的立場で、普段は依頼を受ける部下達の指導が仕事。けれど、作業員の欠員が出るとたまに現場に赴く事があって。
「エアコンクリーニング業務の予約がわりと入っているので、作業手順の確認や汚水の取り扱いには注意して下さい。この前、汚水入れたポリと備品のインパクトをお客様の所に忘れた人も居るので」
「誰ですかそれ……」
作業員の列から冷ややか的な声が発せられた。その声の持ち主は、作業員の中でも俺が密かにお気に入り認定している相手だ。
室内の空気が少々ピリ付いた感じもしたが、そこは俺次第なところで。
申し訳なさげに手を挙げて、苦笑いを浮かべた。
「すみません、俺です」
「え……」
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