いっときのふれあい

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 就業時間。  午後から、徐々にいつもの調子を取り戻していったが、午前中は酷かった。  備品の点検をするのも仕事で、動作確認としてインパクトドライバーを動かすんだけど。先端のビット部分をいつもより長めに、無言で凝視してしまったり。  在庫整理で太めの洗剤ボトルを眺めてニヤニヤしてしまったり。  事務所内にある休憩用の長机を清掃しようとして、粘着質な洗剤を必要以上に垂れ流したり。  無意識の内に奇行を連発してしまって、かなり部下達に心配を掛けてしまった。  昼食後、作業から戻った紫崎を見掛ける事はあった。お互い目が合っても顔を逸らしていたし、接触はしていない。  あっちも意識はしているみたいで、俺達の間にはどこかそわそわした空気が流れていた。  そして、退勤時間。  俺は、普段の三倍くらいゆったりとした動きで会社から出た。  外で働く作業員達は、更衣室で着替えて帰る。だから会社を出るのは俺達より遅めだ。  俺が紫崎を待っているのを見られるのはまずいだろうし、会社近くに不自然に居たら目立つ。 『会社から少し離れたコンビニで待っている』  そう紫崎にメールしたら、すぐに返信が返ってきた。 『すぐ行きます』  メッセージ見ただけで浮わついた気分になり、ニヤけそうになる。そんな自分に気付いて、呆れた。 (昨日と違ってどっちも素面だし、抱かれるわけじゃないのに……何浮かれてるんだ俺は。何するかはわからないけど、多分見るだけで俺は何もされないのに……)  きっと、これから先は今まで通りの日常が続くだけ。紫崎とは少しだけぎこちない関係になるだろうけど、時間が経てばマシになる筈。  何もないとは思っているが、ほんのり何かを期待する自分も居て。邪な想いをどうにか消そうとしていた。  週刊誌を何気無く見ていた横で、誰かが店内に入ってきた気配を感じて振り向く。  それが紫崎だった時、俺は緊張しながら微笑み「お疲れ」と声を掛けた。紫崎もあからさまに顔を逸らしながらも、少し緊張した様子で応えてくれた。
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