いわなきゃいけないこと

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 昨日、紫崎と思わぬ展開を迎えてからいろいろと考える事が多くなっていたが。 「係長、本当に大丈夫なんですかっ?」 「大丈夫だって! 本当に何もないから」  翌日、会社に来たら変な噂が立っていた。  俺のデスクにコーヒーを持ってきてくれた女性社員は疑っていて、気難しそうに唸っている。 「でも、みんな紫崎君ならやりかねないって言ってましたよ? 係長にパワハラして、問題が明るみにならない様に脅してて……精神的に追い詰めてるんだって」  紫崎に引き摺られて連れていかれる所や、俺の奇行を目にして広がった噂らしく。彼がちょうど休みなのをいい事に、あちこちでその話をしていた。  だから俺は、聞かれる度に間違いだと否定している最中で。事務用員の女性達にも言い聞かせていた。 「あの前日に俺が紫崎と酒飲んで迷惑掛けちゃって、ちょっと反省し過ぎたっていうか……行動おかしかったのも二日酔いで調子が悪かっただけだから。紫崎のせいじゃないんだよ」 (怖がらせて起たなかったっていうのも、結局は俺の早とちりだったし。奇行はEDの証明に興奮しただけだったし……結局は俺が悪かっただけなんだけど)  言えないから、話を少し作ってはいる。けど、彼のせいじゃないのは事実。  それでも、紫崎に対する誤解を解くのは少し難しい。  否定を口にした俺の言葉を、素直に信じられない理由が彼女にあるのも事実で。苦い顔して体験談を話してくれた。 「係長がそう言うなら信じますけど……紫崎君ちょっと近寄りがたいじゃないですか。冷たいし、話し掛けても反応薄いし。先輩方ともたまに揉めたりしてるみたいだし……」 「あー、それはまぁ……そうなんだけど……」  言っている事は当たっているから、苦笑を浮かべながら納得はする。  俺だって何年もかけて紫崎と仲良くなったからわかる。残念ながら、紫崎は周囲と関係性を築きにくいタイプだ。  協調性がないわけではないけど、一匹狼タイプで、他人に興味を示す事は少ないみたいだし。でも物言いがはっきりしていて、見た目も目立つから周囲の反感は買いがち。
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