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実際、初めて会った頃の紫崎はもっと尖ってて、揉め事もその分多かった。
問題を治めるのにかなり苦労を強いられたけど、知っていく内に魅力もわかってきて。途中から放っておけなくて、いつの間にか構う対象になってた。
(俺は見た目がドストライクだったし、邪な想像もしてたからお気に入りにまでなったけど、途中で心折れた子は多かっただろうな。人気のピークも入り立ての頃だったし)
女性社員の心中を察しながら、一応噂についてのお願いはしておこうと思って、彼女に手を合わせた。
「けど、今回の事は本当に紫崎のせいじゃないからさ、もし噂について聞かれたら俺が言った事伝えといてもらえる? 紫崎は誤解されやすいけど、悪い奴ではないから。お願い!」
強く目を瞑ってからちらっと女性社員を見上げたら、仕方なさげに笑ってくれていた。
「わかりました。係長からお願いされたら断れませんからね。ちゃんと伝えておきます」
「ありがとう。お願いします」
笑顔で彼女を見送った後、コーヒーを飲んでやっと一息吐いた。
けど、まだ考えなきゃいけない事もあったから真面目な顔付きで腕を組み、物思いに耽る。
(ゆっくりだとは思うけど、否定していけば噂はデマだって認識される筈。問題は、昨日の触り合いだよな……)
触る前に反応してたから、紫崎がEDじゃないのは明らかになったけど、あんな事になった。それに、その日だけだと思ったら次のお願いまで。
ノンケに、自分を全否定されるよりは嬉しい事で、気持ちが舞い上がりそうだった。けれど、冷静にならざろう得ない。
(紫崎のアレなら、俺を滅茶苦茶にしてくれそうだけど……愛でる対象と決めてた相手を、こちら側に引き込んでいいもんか? あの後だって「そういう機会があれば」って曖昧に返事したから、有耶無耶になったかもしれない。けど、俺の事ゲイだって認識してるんなら受け入れても……)
頭を休めようと、またコーヒーカップに手を着けた時。都合の良い様に解釈してると気付いて、はっとした。
(いや、言った訳じゃないだろ……カミングアウトはしてないから、認識されていない可能性もあるじゃんか。もし認識されていなかったら……伝えなきゃ)
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