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そう思ったら、過去の嫌な記憶が流れ込んできた。
手が震え出し、コーヒーカップにもそれが伝わる。
(情けな……)
傷を隠すみたいに一人で下手くそに笑い、コーヒーを口へ流し込んだ。口の中でしばらく苦味は漂っていたけど、俺にある考えを生ませてくれた。
─ ─ ─ ────
いつも歩いている駅までの帰り道。夕陽の暖かさとかを身体に感じたりはしていたけど、頭は少しぼんやりしてた。
自分で導き出した答えで、これならカミングアウトするよりは良いかと思ったのに。いまいち納得してないらしく、自然と気難しい顔になる。中身はとても下らない内容なのに、だ。
そんな時に、何となく街中を見回したら視覚内で知ってる顔を捉えた。
カフェの前で、紫崎が女性と話をしている。
俺も気分転換でよく立ち寄る店だったから、余計目に付いた。
人違いかと思ったけど、よく見るとちゃんと本人。横断歩道越しだから声は聞こえないけど、表情は見えた。
彼に縋って必死に話している綺麗めな女性と、眉間に皺を寄せて面倒そうにしている紫崎。並んでいる姿はお似合いに見えるけど、どう見ても彼女の一方通行。
仲良さそうには見えない。けど、男女のペアを目の当たりにすると、思い知らされる。
(やっぱり、紫崎はあっち側だよな)
自分の置かれた立場を鼻で笑い、見ていた光景から顔を逸らした。すると、彼がこちらの方を向いた気がして、視線だけ向けたら。
「えっ!」
車が来ていなかったタイミングで、紫崎はこちらに走ってきた。まさか来るとは思わなかったから、少し驚く。
「ちょっ、いきなり危ないだろっ。どうしたっ」
紫崎は涼しげな顔をして、風で靡いていた髪を指で戻していた。
「元々係長が来るの待ってたんで。それに、断っても話終わらなかったから……」
反対側の歩道に居る彼女は、傷付いたみたいな顔をしていたけど、俺を睨むと去って行った。
タイミングが悪かったと思いながら、去った彼女の方を気まずそうに指差す。
「本当にいいのか? 何か彼女必死みたいだったのに」
「あっち側から振ってきたのにやり直して欲しいって言われても困るだけなんで……係長来てくれて助かりました」
「俺としては複雑なんだけどな……睨まれちゃったし」
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