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翌日。紫崎と顔を合わせる機会はあったけど、残念ながら何もない。
敢えて話し掛けない方が良いと思ったし、紫崎も何処と無く俺を避けている感じで。
その日の仕事は変な事を考える隙も無く、ミスもゼロ。
退勤してからは会社から少し離れたカフェに入って、寛ぎながらメールを打つ事にした。
広い世代が利用しているウッディでレトロチックな店内。ボックス席やボリューミーなメニューも多いし、時間を潰すにはちょうど良かった。
今日は心が空虚で。あれ程抱かれることに対して情熱を燃やしていたのに、今日はいまいちだった。
それでもホットコーヒーを飲む片手間に、カフェに相手を呼び出すメールを打った。アドレス帳をよく見ると、紫崎の名前に気が行きそうだから、あまり画面を見ずに宛先を指定。
『久しぶり。申し訳ないけど、暇があれば相手をして欲しい。ちょっと気持ち寂しくて、前みたいに張り切っては出来ないかもしれないけど、うんと激しくして良いから。俺は明日、仕事休みなんだけど』
カフェの場所を明記して送信した後、溜め息を吐いた。
(いつもならすげぇ興奮するんだけどなぁ)
急な事だし、来なかったらゲイバーとか行ってやけ酒コースって一応決めて。コーヒーのおかわりしたり、軽食頼んだりして三十分程時間を潰した。
そしたら。
忙しく動く足音が聞こえてきて、その相手がすぐ横で止まった。真横を向いたら、肩を上下させながら呼吸している相手がこちらを睨んでいて。
「……え」
そこに居たのは知り合いのゲイではなく、紫崎だった。
「紫崎? 何で俺がここに居るのわかったんだ……?」
困惑してそう尋ねたら、紫崎は無言でスマホの画面を見せてきた。さっき送ったメールの内容が書いてあり、自分のミスに初めて気付く。慌てて謝罪の言葉を口にした。
「わっ、ごめんっ! 宛先間違えて送っちゃったみたいで……」
「……あんた、いい加減にしろよ?」
荒い呼吸を整えて顔を上げた紫崎は、目がバキバキで。低いトーンがブチギレ具合を物語っていた。
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