はずかしいばくろ

4/5

149人が本棚に入れています
本棚に追加
/173ページ
 翌日。紫崎と顔を合わせる機会はあったけど、残念ながら何もない。  敢えて話し掛けない方が良いと思ったし、紫崎も何処と無く俺を避けている感じで。  その日の仕事は変な事を考える隙も無く、ミスもゼロ。  退勤してからは会社から少し離れたカフェに入って、寛ぎながらメールを打つ事にした。  広い世代が利用しているウッディでレトロチックな店内。ボックス席やボリューミーなメニューも多いし、時間を潰すにはちょうど良かった。  今日は心が空虚で。あれ程抱かれることに対して情熱を燃やしていたのに、今日はいまいちだった。  それでもホットコーヒーを飲む片手間に、カフェに相手を呼び出すメールを打った。アドレス帳をよく見ると、紫崎の名前に気が行きそうだから、あまり画面を見ずに宛先を指定。 『久しぶり。申し訳ないけど、暇があれば相手をして欲しい。ちょっと気持ち寂しくて、前みたいに張り切っては出来ないかもしれないけど、うんと激しくして良いから。俺は明日、仕事休みなんだけど』  カフェの場所を明記して送信した後、溜め息を吐いた。 (いつもならすげぇ興奮するんだけどなぁ)  急な事だし、来なかったらゲイバーとか行ってやけ酒コースって一応決めて。コーヒーのおかわりしたり、軽食頼んだりして三十分程時間を潰した。  そしたら。  忙しく動く足音が聞こえてきて、その相手がすぐ横で止まった。真横を向いたら、肩を上下させながら呼吸している相手がこちらを睨んでいて。 「……え」  そこに居たのは知り合いのゲイではなく、紫崎だった。 「紫崎? 何で俺がここに居るのわかったんだ……?」  困惑してそう尋ねたら、紫崎は無言でスマホの画面を見せてきた。さっき送ったメールの内容が書いてあり、自分のミスに初めて気付く。慌てて謝罪の言葉を口にした。 「わっ、ごめんっ! 宛先間違えて送っちゃったみたいで……」 「……あんた、いい加減にしろよ?」  荒い呼吸を整えて顔を上げた紫崎は、目がバキバキで。低いトーンがブチギレ具合を物語っていた。
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

149人が本棚に入れています
本棚に追加