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「紫崎……どうかしたのか? 俺が来る前に何かあったんじゃ……」
人差し指で彼を示したら、部下達は心配そうに証言し始めた。
「昨日からぼーっとしてる事多いんですよ。昨日も係長の椅子に座ってあーなってたし」
「えっ、昨日も?」
「それだけじゃないです。普段仕事でミスしないのにポリとインパクトを忘れてきたり、依頼あった大型会場の床清掃でかっぱぎ頼んだんですけど、バケツの中にモップを沈めては出してを永遠に繰り返してたり」
既視感が強いなと思っていたら、話はこれだけじゃなく。
「俺なんて、エッジングの為に床に四つん這いになって拭き掃除してたら尻に洗剤掛けられたんですよ! あいつ様子おかし過ぎて怖いんですよ!」
衝撃的な証言を得て、俺は確信する。
(絶対俺のせいじゃんか……)
けれど表情に罪悪感を出すわけにもいかない。下唇を噛んで耐えた。
よく紫崎と一緒に居る作業員達は今までにない様子の彼を強く気に掛けていて。
「あんな紫崎見たことないから、すごく心配なんです。あいつから悩みとか聞いたこともないし、係長から話聞いてもらえませんか?」
ごめんなさいって心で呟き、引き続き冷や汗を流しながら部下達を落ち着かせる。
「話はわかったよ。たしかに様子がおかしいみたいだから、午前中は面談して話してみるから。午後は大丈夫そうだったら送り出すよ」
みんな仲間想いの良い部下達で「お願いします」って頭まで下げてくれた。本当に頭を下げなきゃならない、いや、土下座でもしなきゃならないのは俺なのに。
とにかく何とかしなければって、紫崎が座る俺のデスクに静かに近寄った。
「おはよう紫崎」
「っ!? ……ぁ、おはようございます」
俺の存在に気付いていなかったみたいで、肩をびくつかせて驚いていた。
デスクに荷物を置きながら、俺は複雑そうに言葉を紡ぐ。
「あの……午前中はちょっと話しようか。朝礼終わったら応接室に行こうな」
「あ、はい……」
少し目が泳いでいて挙動不審。
彼をこんな様子にするつもりはなかった。ちゃんとけりをつけなければと、さっきまでの浮わついた気持ちはそっと封印した。
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