よそうがい

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 あれ程の激しい行為は本当に久しぶりだった。それもあってか、俺はうっかりしていた。  事務仕事の為、大半は座りっぱなし。リフレッシュや部下の様子を見る為、たまに立ち上がるけど。 「いっ! っぅー!」  ズキッと、腰に痛みが走る。 (昨日は本当に激しかったもんなぁ。俺としてはすごい良かったけど、身体はバキバキだな……)  気分は最高、身体のダメージは重め。だから今日は腰を摩り、負担が掛からない様に歩行や動作をスローにしていた。  奇行ではないけど俺の動きがぎこちないから、部下は心配して気遣ってくれている。  腰が痛い理由は「家でひねった」ということにした。  あそこまで激しいなら、休日前夜等にしてもらうべきだったと、今更後悔していると。 「係長」  清掃依頼先から戻ってきた紫崎が難しい顔をして近付いてきた。  昨夜の、色気のある優しげな表情がとてつもなく印象に残っていて、少しだけ照れがある。が、そこを覆い隠す様に上司らしい微笑みを彼に向けた。 「紫崎、お疲れ様。もうそろそろで昼休みに入るし、社食開くまではゆっくりしてていいぞ」 「そうさせてもらうつもりですけど、その前にこれ」 「ん?」  突然、薬局のレジ袋を差し出してきた紫崎。受け取って袋の中身を覗いたら、今の俺にぴったりの物が入っていた。取り出して、まじまじと確認する。 「これ、湿布……」 「ずっと腰摩ってたから、痛いんだと思って……」  まさかここまでしてくれるとは思ってもいなくて、嬉しさを飛び越えて感動した。胸の奥がジーンとする。 「わざわざありがとうな。お金払うから……」 「要りません。それより俺貼りますから、ちょっと来て下さい」 「え!」  他の部下達が意外そうな顔をして俺達を観察している中。俺は紫崎に手首を掴まれ、トイレに連れてこられた。  すると、俺から手を放した紫崎は湿布のパッケージをてきぱきと開け始めていた。が、少し元気のない表情で。 「すみません……無理させて。こうなるって考え付かなかったから……」
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