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反省している様子の紫崎を励ます為に、俺は明るい声で振る舞いながら背中のシャツを捲った。
「いいんだよ。無理矢理じゃなくて俺が許可したことだろ? あーいうの本当に久しぶりだったから、忘れてた俺が悪いの!」
背中に紫崎の指が触れ、湿布が貼られている感覚があって。その最中、控えめさと迷いがある彼の声が聞こえてくる。
「その……俺以外と激しくしたの……どのくらいぶり……?」
もうほとんど晒け出してしまっているから、恥じらいもなく平然と答えた。
「そうだなぁ、ここまで激しいのは六年ぶりくらいかもな」
俺がこういう性癖になったのは元彼の影響がでかかった。別れてすぐの頃は一夜の相手に頼んだりもしたが、どれもあれ程ではなかった。
「そっか……」
少し、彼の声のトーンが落ちた気がした。湿布を貼り終えた後に、優しく腰を摩ってくれた感覚ですぐにその情報は消え失せたけれど。
肌に触れる手の温度がじわじわ伝わってきて、行為をしてるような気分になってくる。
職場で変な気を起こすわけにはいかないのに、それを忘れそうで。
「あのっ、むら……!?」
俺達は個室に入っていたわけではなく、手洗い場に居た。だから、トイレのドアが開いたら見られるのは当然。
不覚にも、目撃されてしまった。同じ課の部下二人に。
「えっ!? 紫崎と係長!? 何してんの!?」
シャツを捲って背中を出している係長と、背中を摩っていた部下。
異色な組み合わせと予想してもいなかった光景に、二人は驚いて後退りまでしていた。
別に厭らしい行為をしていたんじゃない。が、この光景は関係を誤解されかねない。俺は焦って喋り出していた。
「あっ、これはっ、俺が腰痛いの知って紫崎が湿布買ってきてくれてだなっ!」
すると、その場に居た二人は顔を見合わせた後、笑い出した。
「なんだぁ!」
「なんかっ、孫と爺ちゃんみたいな図だなっ」
その発言を聞いて、ちょっと安心した。
(まぁ、俺と紫崎がセフレだとか、周りは思いもしないか)
力が抜けて、俺もぎこちなくだけど笑顔を作る。
「そ、そうか? 俺も年だからな、あはは……」
さっきまでの気分を誤魔化して笑っていたら、その場を裂く様な声で空気が一変した。
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