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知らない人間にすがって頼るくらい、紫崎のことが好きらしい。
わりと申し訳なく感じる様な関係性を紫崎と築いているから、気持ちが揺らいできた。
もう一度話を聞いてもらう機会を作るくらいなら。少しモヤモヤはしていたけど、そう思い始めていた。
すると、後ろから腕を引っ張られて、俺は強引に彼女から遠ざけられていた。
少し上の方を見ると、不機嫌な紫崎が彼女を見据えていた。
「何してんの」
「芳哉、ごめん。もう一度だけ……話を聞いて欲しくて…」
嫌悪感を滲ませている紫崎を目にすると、彼女は弱々しくなっていた。
「話す事はないって言っただろ。帰れ。お前のこと、俺はなんとも思ってないんだから、何回来られても困るし、ただの迷惑だ」
本当に何も思ってなさそうな、冷たい口調だった。
紫崎の意見はごもっともなんだろうが、少々はっきり言い過ぎな気もする。
言い方が超ストレートで、泣き出してしまいそうな顔を彼女はしていた。
それでも動こうとしない彼女に、紫崎は深く溜め息を吐いた。
「お前は、俺が好きなんじゃなくて……隣に誰か居て欲しいだけだ。俺以外の男を探せばいいだろ。俺に勝手に期待して文句言って、自分から離れたんだから……もう付き纏うな」
「それは、うまくいかなくて私も言い過ぎたところあったからで……だけどもう一回やり直したら……」
「やり直しても変わらない」
どんなに話しても、二人の話し合いは平行線だった。
会社前だから人目にも付く。気まずくて、キョロキョロと周囲の様子を伺う俺の横で、紫崎は明らかにイライラしていた。
いつまでも埒が明かないが、未練があって諦められずにいるらしい彼女。自分の胸に手を当てながら、献身的な態度で懸命に紫崎を説得し出した。
「私、芳哉が好きになってくれるようになるから。付き合っていた時も、芳哉の好みとか何も知らなかったけど……そうなれるようにちゃんと努力する」
「……それでも、俺の気持ちは変わらない。お前は俺の好きなタイプには一生なれないから」
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