かれもそうなのか

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 次の日を迎えて、待ちに待っていた休日前夜はとうとう明日になっていた。  なのに、全くテンションが上がらない。  朝、鏡で自分の顔を見た時は目が死んでいて、とても酷い顔をしていた。  思っていた以上にダメージを受けていたみたいだ。  ずっと沈んだ状態で居れば、また部下達に心配を掛けかねない。紫崎にも無駄な苦労をさせてしまいそうだ。  だから、事務所に行く前は休憩所で栄養ドリンクを飲んで気合を入れた。  頬もバシバシ叩いて、笑顔への意識も忘れない。  いつも以上に元気を出して、事務所のドアを開けようとしたが。 「係長」 「ひぃっ!?」  背後から紫崎の声が聞こえ、幽霊が出たくらいのリアクションを彼に見せてしまった。 「驚き過ぎ……」 「ご、ごめん……まさか後ろに居るとは思わなかったから。……おはよう」  呆れている紫崎にきちんと挨拶はしたものの、目を合わせにくい。  そんな俺に彼は何か感じ取ったらしく、顔を覗き込んできた。 「……昨日のことで怒ってるんですか?」 「べ、別に怒ってないぞ……」 (気になることはいっぱいあるけど……なんで怒ってるって思うんだ……?)  気まずい空気の中、昨日のことを思い出した時、ある場面が思い浮かぶ。  別れ際の俺は触れられるのを避けて、逃げるみたいに走っていた。 (そっか。紫崎からすれば、巻き込まれたから面倒に思っての行動に見えなくもないのか……)  混乱していたとはいえ、誤解を招く言動をしていた。  何をどう言えばいいのかわからない状態ではある。が、そこは強く否定しようと手を振った。 「彼女にしがみ付かれた時はびっくりしたけど、巻き込まれて迷惑とかは思ってないぞ! 大丈夫だ!」 「そっか……」 「あぁ!」  大袈裟な否定をしたけど、そのおかげなのか。紫崎の顔は無表情だけど、安心して穏やかになった様にも見えた。  あの言動は、紫崎に好きな相手が居るかもしれないって慌てていたから。そんな理由って知れたら、俺の方が面倒だと思われるから、そう言う訳にもいかない。 (この関係は、少しずつフェードアウトってことになるかな……)  寂しさを隠しながら笑って、事務所のドアノブに手を掛けた。
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