かれもそうなのか

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 この社員達の中から紫崎を探して話を聞かなければならないが、なかなか見付けられない。 (せめて見付けてから料理手に取るんだったな……ミスった)  牛丼が乗ったおぼんを持ちながらうろうろするのは目立つ。俺以外にもそういう人は何人か居るからおかしくもないが、空いてる席を探すのも一苦労だ。  そもそも、紫崎の隣か前が空いているのかもわからない。紫崎と話をしたいからって、考えなしに来るんじゃなかった。  そんな後悔をしていたら、ふいに肩を叩かれた。 「係長、どうしたんですか?」 「あっ、紫崎!」  振り返れば、不思議そうに俺を見下ろす紫崎と目が合った。  会えてとても嬉しく、頬を緩ませるが、直ぐ様気付く。 (しまった、偶然を装って近くに座ろうと思ったのに、 まさか本人来るとは思ってなかった!? なんて言えばいいんだ。会いに来たって素直に言うべきか? てか、立ってるってことはもう食べ終わってるんじゃ……) 「えっと……」  あれこれ考え過ぎてまともに喋れずに居る俺に、彼は顔で方角を示した。 「とりあえずこっち」  彼に連れて行かれたのは、食堂の一番奥にある壁際のテーブル。その端の席に食べ掛けの牛丼があって、紫崎はそこに座った。なかなか見付けられなかったことにも納得がいく。  奥の方は意外と盲点なのか、それとも彼が近寄りがたいからなのか。そのテーブルは紫崎以外誰も使用していなかった。 「好きな所に座って下さい」 「あ、あぁ。じゃあ……」  真正面に座るのはさっきのこともあって気恥ずかしいから、彼の隣におぼんを置いて座った。 「いただきます……」  とりあえず、手を合わせて食べ始める。量は少なめにしてもらったけど、食べるのに少々時間が掛かりそうだった。  ちらりと横を見ると、紫崎も食事を再開していた。残り三分の一くらいで、俺より早く席を立ってしまいそうだ。  だからすぐに会話を切り出したかったけど、いざとなると話し掛けにくい。 (昨日のこと、そもそも俺は部外者だからなぁ……好きな相手本当に居るかは確認しないとなんないけど……)
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