かれもそうなのか

5/6

148人が本棚に入れています
本棚に追加
/173ページ
 箸を口元に運びながら考えていると、紫崎から視線を感じた。そちらを見やると、まじまじと俺を眺めていて。 「ど、どした?」 「それはこっちの台詞です。社食、普段来ないのに珍しいですよね」 「あ、あぁ。たまには良いかと思って……。それと、食べながら紫崎と話そうかなって……」 「……もしかして、予定出来ました?」 「あっ、違う違うっ! それは問題ないからっ!」  そっちじゃないって慌てて首を振り、軌道修正する。 「元々俺は関係ないけど、昨日のこと気になってさ」 「関係なくもないでしょ。あいつの心配ならしなくてもいい……あー言えばもう諦めるだろうし」 「いや、心配とかじゃなくて……」  眉間に皺を寄せてむすっとし始めていた紫崎から視線を外して、うつ向きがちに尋ねた。 「昨日、彼女にいろいろ聞かれて……好きなタイプとか居る様に言ってたけど。あれって、彼女諦めさせる嘘だったのかなって気になってさ……」  少し、喉が渇いていた。おぼんに乗せていたコップを手に取り、一口飲んで返事を待った。  コップをおぼんに置いても、なかなか紫崎から返事をもらえない。  人が多くて周囲が騒がしいから、聞こえてないのかと思った。けど、横を向いたら、頬杖付いた紫崎が俺の顔を覗き込んでいた。  俺の感情探るみたいに、真剣な表情で俺を観察していて、思わず息を飲む。  彼の唇が軽く開いて、発声される言葉を待っていたら、俺の左手は彼の右手に捕らえられていた。  テーブルの下の出来事だから周囲には見えていないけど、絡めるみたいに手を握られている。  その間も、紫崎は俺の顔を見たままだ。恥ずかしさで赤く染まった顔を逸らし、小声で抗議した。 「む、紫崎……会社で触るのはちょっと……」 「見えてないですよ。それより……」  (もてあそ)ぶみたいに俺の手を指でなぞりながら、今度は俺に質問してきた。 「もしかして、昨日からそれずっと気にしてて様子おかしかったんですか?」 「お、おかしくしてたつもりはないけど……前はこだわりないとか言ってたのに……何か心境の変化あったなら……考えなきゃいけないだろ」 「考えるって何を?」
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

148人が本棚に入れています
本棚に追加