かれもそうなのか

6/6

147人が本棚に入れています
本棚に追加
/173ページ
 社員食堂ってこともあって、頭をフル回転させながら言葉を選び。声を絞り出した。 「特定の相手居るなら……俺とはダメだろ……」  胸の奥底で、何かがずっとザワザワしている。そんなに紫崎と出来なくなるのが嫌なのかと、自分に呆れた。  彼の様子を窺うと、いつの間にか俺の手を放していて、頭を抱えていた。 「えっ。どうかしたのか?」 「いや、なんでもないです……」  なんでもなくは見えない。何故だか少し不機嫌にも見える。  困惑しながら眺めていたら、紫崎は眉間に皺を寄せて残っていた丼を掻き込んでいた。  コップにも手を伸ばして、水は喉を鳴らしながら一気飲み。  コップを置いて一旦動きを止めたら、紫崎は強い目力で俺を見ていた。 「言っておきますけど、好きなタイプは確立しました。明日の夜、教えます。けど、貴方とは何も変わらないですから」 (……好きなタイプは居るけど、好きな人は居ないってことか……?)  何も変わらない。表情には出さないようにしたけど、その言葉を聞いただけで気持ちが楽になった。思っていた以上に、何故だか嬉しかった。  うつ向いてたら、隣の紫崎は立ち上がっていた。  俺の器にはまだ牛丼が残っている。  安心したところで早く食べないとって、箸を持ち上げる。  すると、おぼんを持とうと腰を低くした紫崎の顔が俺の横にあって、奴は囁いた。 「明日の夜、会うなら係長の家が良いです。泊まる準備して、行きますから」 「んぅ!?」  口に食べ物を詰めている最中で、うまく喋れなかった。焦って飲み込もうとしたせいで余計むせる。  そんな俺を見た紫崎は、何事もなかったみたいにその場から去っていった。呼び止めることが出来ず、決定事項とみなされたみたいだ。 (紫崎が俺の家来んの!? 部下家に入れたことないんだけど!)  水を飲んでむせが治まった頃には、時既に遅し。その場に紫崎は居なかった。    紫崎の好みのタイプについては明日知れるみたいだから、楽しみではある。が、家に来る件は、突然のことでまだ理解が追い付いてない。  自分のリアルを全部見せる感じが急にしてきて、かなり覚悟を要するし、変に緊張する。 (と、とりあえず今日の夜は大掃除決定だな……)  明日の夜の情事については深く考えることはせず、会社ではまともな精神状態をキープ。  目の前にノルマみたいにある食事に手を付けながら、俺は明日のプランを練ることにした。
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

147人が本棚に入れています
本棚に追加