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「お、お疲れ。大してお構い出来ないけど……どうぞ」
会社で会う時とは空気感も違うから新感覚で。少し照れを感じながら紫崎を歓迎した。
「お邪魔します」
彼が中に入ったのを確認してからドアを静かに閉め、鍵を掛けた。
部屋が二人っきりの空間に変化して俺は緊張していたが、紫崎はとてもスマートだった。客人用のスリッパを履き終えると、紙袋を差し出してくれて。
「いくつかの酒と、ツマミになりそうな惣菜とか買ってきたんで。今日は世話になるし……」
「えっ、気使わせて悪いなっ……ありがとう」
紙袋は有名なデパ地下の物で、会社からは少し距離がある。 わざわざ買いに行ってくれた心遣いが嬉しくて、口許も緩んだ。
しかし、紫崎はバツが悪そうに後頭部を掻いていた。
「家、急に来たいって言ったから……すみません。迷惑考えないで……」
一応こちらの都合とかも紫崎なりに考えてくれていたみたいだ。
俺も頭でいろいろと考えてはいたけど、口にしたのは心からの言葉だった。
「いや、びっくりはしたけど、迷惑じゃない。……休日前に紫崎と会えるの、俺は嬉しいし」
照れながらも顔を見上げてそう言ってやると、心底安心したみたいに彼は微笑んだ。
「なら、良かった。係長がどんな部屋住んでるかとか、どうやって過ごしてるのか興味あったし……俺も長い時間居れるの、楽しみだから……」
紫崎がこの先のことも想定して喋っていると思うと、とてもドキドキした。
けど、ふと紫崎の表情は何か企む様なコミカルな無表情になって。
「……後で部屋にやばいものないか、確かめるから」
「なっ、何もないって!」
「いや、わかんないし」
俺が焦っているのが彼は楽しいみたいで。こういう関係になる前に少し見せた、デレ期の紫崎が今日は出て来ていた。それでなのか、色気ある大人っぽい雰囲気が少し薄まっていた。
歳の差があるセフレとの関係性が、今は仲の良い上司と部下の関係性に変化している。
だから少しの間は、何も意識せずに紫崎と会話が出来ていた。
─ ─ ─ ────
紫崎に風呂に入ってもらっている間に惣菜等を皿に盛り付けて、酒も冷蔵庫で冷やしていた。
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